企画
□冬の恋人
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相田と付き合って一年。オレは大学二年、相田は大学一年になっていた。
「さ、寒い…な」
付き合って一年というのにやはり長年連れ添ってきた異性への苦手意識がわざわいし、手を繋ぐのも一苦労というなんとも情けない現状だ。
がしかし、この一年で普通に話すことや隣を普通に歩くことが出来るようになったのだから成長はしているんだと思う。
『最近、寒さが増す一方だものね。』
「風邪、引くなよ…?」
そ、と相田の手に手を伸ばそうとするが
『ふふ、大丈夫よ! 私よりも笠松君が心配だわ。』
「!」
相田がこちらを見たことで臆病な手は引っ込んでしまう。
『?』
「…バーカ。オレは平気なんだよ。」
手を引っ込めた臆病者は自分だが、手を引っ込めたことにとてつもない後悔を感じている自分がまた、情けない。
『ははっ、どこからそんな自信が来るの?』
そして無邪気に笑う相田が眩しい…
「お前はいつも楽しそうだな。」
そんなお前を見ていると悩みなんか吹っ飛ぶ、という本音は隠しておく。
『ふふ、だって笠松君が隣にいるんだから楽しくないわけないわ!』
「…っ」
随分と嬉しいことを言われた気がする。
『笠松君?』
たぶんオレは耳まで赤くなっているかもしれないからと相田とは逆に顔を向けた。
「……ありがとう。」
素直に言えたことが少し嬉しかったりするのだがそれを相田に伝える術をオレは知らない。
『あははっ いえいえ!』
それがなんとももどかしい…。
「///」
それにオレばかり動揺しているようで、少し悔しい。
『ぁ、わ!!』
そんなことを思っていると突然隣から相田が消えた。
「相田!?」
『いつつ…っ』
どうやら滑って転んだらしい。
「気を付けろ相田。」
心臓に悪いから、という本音は隠し相田に手を差しのべる。
『あ…はは、ごめんごめ…ってあ!?』
恥ずかしそうに顔を染めながらオレの手を借りて立つがまた滑ったのか前のめりに相田がまるでスローモーションのようにゆっくりと上体が前に…――
「――とっ」
咄嗟に手を伸ばし相田を支える。
「大丈夫か?」
『あ、う――』
顔を上げた相田の唇がオレのそれに触れた。
「『……』」
時間が一瞬、止まったように感じた。
『笠、ま…く…』
ゆっくり離れた途端、ボンッと湯気がたつくらい顔に熱が集まりだした。
「あ、や…あの…!ああああ…っ」
『うふぁ!?』
とりあえずどうしていいのかわからず、とりあえず相田を自分の胸の中に閉じ込めた。
「(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着けオレ!!)」
ハァハァ、と息切れを起こしながらはた、と気づく。
「(オレ…相田を抱きし…っ!?)」
コチンッ、と全身が硬直した。
『あ、の…笠ま――』
そして相田の声を脳が察知した途端、勢いよく離れた。
「す、すまん!!悪気はない!!すまん!!本当に!!」
あーっ、なにをやってんだオレ!?
『あ、あの』
「本当にすまん!!」
心配そうに声を掛けようとした相田をオレは遮った。とにかく落ち着きたくて仕方なかった。
『…笠松君は…私にそんなに触りたく、ない、の…?』
「え…?」
閉じていた目を開けるとそこには今にも泣き出してしまいそうな相田がいた。
「!?」
『私、そんな…に、触れたく…な…っ』
相田の言っている意味を数秒間考え、自分の失態を思い知る。
『私、ごめ』
「違う!!」
謝ろうとする相田の手に触れた。
『笠松…君…っ』
「本当は…っ、いつも相田に触れたくて仕方ないんだ!」
『!!』
「でもどうやって触れたらいいのかわかんねーんだ…っ、それに少し触れるのが…怖い…っ」
触れたら壊してしまうかもしれない。泣かせてしまうかもしれない。…傷付けてしまうかもしれない。
「…っ」
オレはそれが…何より怖い…っ
『――笠松君』
「!」
トス、と自ら相田が胸の中に飛び込んできた。
『私、そんな柔じゃないわ。それに私だって笠松君に触れたい。』
「……」
『だから安心して…』
『ねっ!!』と言って笑った相田をオレは抱きしめた。
「あぁ…」
耳元で聞こえる相田の笑い声が心地いいことを初めて知った冬だった。
冬の恋人
・終わり・