宝箱

□願い
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手摺に手を掛け、空に向かって顔をあげる。星は、見えない。楽しみにしていた天の川も、見えなかった。十代は寂しそうに溜め息を吐いた。溜め息すら、暗くよどんだ空に吸い込まれそうだ。だがその前に、十代の溜め息を海馬が拾った。
「そんなに落ち込むな。星は宇宙にあるのだろう?宇宙は空の上にある。空は雲の上にある。会えない方がどうかしてる」
「そんなに落ち込むな。星は宇宙にあるのだろう?宇宙は空の上にある。空は雲の上にある。会えない方がどうかしてる」
ポンと、海馬は十代の頭を撫でた。彼の割にはロマンティストのようなセリフが出て来て、十代は思わず目を見張る。現実主義で少し頭の堅いところはあるが、時々感情に走った言葉も海馬の口から出てくることがある。だからこそ、それが発せられた時の驚きも大きい。けれどやはり性に合わないことなのか、十代の視界に映る海馬の頬には、少しばかりの照れが表れていた。
「……だからだな、……」ああ、なんて優しい人なんだろう。十代は知らず知らずの内に満面の笑顔を見せていた。
「ありがと、瀬人…」
目を閉じて、十代は隣りに立つ海馬の腕に寄り掛かった。フンッと鼻を鳴らす海馬に、十代の笑みは深くなる。
優しい。好きだ。
膨らむ気持ちに名前をつけるなら――。否、どんなに考えても十代の中でその感情に名前は付かなかった。
優しい。好きだ。
それだけでいい、と十代は思った。
「なあなあ、短冊書こう!」
「俺は別に…」
「もうっ、欲ないなぁ。世界征服とかでいいから、書こう!」
十代に腕をひっぱられ、子供と遊園地に遊びに来た日曜日のパパ気分だった。……だが。どこまでも無邪気な十代に懐いてもらえるなら、
「パパも悪くないな…」
「え?何、瀬人はパパになりたいのか?」
「……お前が妻なら、子供を作ってもいいぞ」
「?」
海馬の問題発言も天然仕様の十代にはあっさりと流さる。部屋に戻り、海馬のデスクの引き出しから色とりどりの短冊を取り出した十代は、数枚の短冊にペンを走らせた。始めは渋っていた海馬も、一枚だけに願いごとを書き、こっそり笹の一番上に吊るしていた。
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