宝箱

□願い
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短冊を飾り終わり、十代はさっそく海馬に何を願ったのかを聞いてみる。
「瀬人は何をお願いしたの?」
テラスの手すりに背を預け、十代は窺うように上目遣いに海馬を見上げた。十代の可愛さに、一瞬うっかり短冊に書いた願いごとを喋りかけて、海馬はぐっと口を閉ざした。
「言ったら叶わなくなる」
「プ…瀬人ってば可愛い―!叶わなくなるから言いたくないんだ?」
むしろ叶っても叶わなくても言いたくないのが海馬の本音だ。見られて恥ずかしいものではないが、あんなに七夕をバカにしてしまった反面、短冊に頼った自分が情けない。
「…そういうお前は、何を書いたんだ?」
「え…っ、いや、別に…世界平和とか?」
十代の目は泳いでいた。嘘はついていないようだが、まだ他に言いにくい願いごとを隠していそうな顔つきだ。海馬はスイッと、自分の横に立ててある笹の木に目を移した。弱い風に揺れる赤色の短冊。十代が書いた短冊に間違いないが、彼にしては付ける位置が上過ぎる。海馬は長いリーチを活かして、その短冊に手を伸ばした。十代が焦る。
「わ―っ!わーっ!!ダメ―っ!!」
十代がわたわたと手を伸ばす。だが、海馬の指が短冊に触れる方が早かった。短冊を表向ける。そこには、到底16歳の少年とは思えない願いが書かれていた。

『織り姫と彦星がちゃんと会えますように』

「…これがお前の願い事か?」
「で、でもそれは3つの中の一つな」
「なら後二つの願いは何なんだ?」
「お、教えないっ」
恥ずかしそうに頬をピンクに染めて、十代はフイッとそっぽを向いた。海馬は静かに口元に笑みを刻んだ。
「どうやら俺の惚れた奴は、とんでもない奴らしいな」
「え…っ」
海馬の呟きに反応するより先に、頬を両手で優しく包まれ、口付けを落とされる。
「……っ…」
「俺の願いを教えてやろうか?」
いじわるく囁かれた願いに、十代は顔を真っ赤にさせた。そして反撃とばかりに愛らしい唇から告げられた願いに今度は海馬が参ってしまう番だったようだ。
『永久永劫、遊城十代といさせろ』
『ずっと瀬人と一緒にいられますように』
二枚の短冊が寄り添うように夜風に揺られていた。

end
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