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□第一種接近遭遇:銀時編
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かぶき町の外れにある簡素な造りの居酒屋。夜も更け小さな店内は賑わいを見せていた。

土方はいつも通り黒の着流し姿でふてぶてしくのれんをくぐった。
「いらっしゃい!おや、ご無沙汰ですねェ土方さん」
「ああ。久々に明日非番がとれてな。あったまってから寝ようかと…」

「あら〜?鬼の副長さんじゃねェのォ?」

覚えたくないのに聞き覚えのある声に盛大に眉間にシワを寄せ声の聞こえたほうをゆっくり見遣る。
「なんでテメーがいんだ…。」
「俺ァここの常連よ?いて悪ィか」
「悪ィよ帰れ」
「いやお前が帰れよ」
個室風に仕切られた店の一番奥のスペースにすっかり見慣れた声の主−銀時がすでに顔を真っ赤にして座っていた。また不毛な争いが続く気配が全力でして土方は吸っていた煙草のフィルターを噛み締めるとカウンターへ座るべく向きを変えた。帰る気はさらさらなかった。ここで帰ればヤツに負けたも同然だ。どこまでも意地を張り続ける男、土方十四郎である。

ちょうどカウンターに座ろうとした時店の親父がとんでもないことを言い放った。
「すまねェ土方さん。今日カウンター予約入っちまってんでさァ。生憎今満席でしてね。銀時の旦那とお知り合いなら相席してもらってもよろしいですかねェ?」

「…マジでか」
「俺ァかまわねェよ〜。ちょうどひとりぶん空いてるし。」
「オイちょっ…」
「いや助かりまさァ。さささ。どうぞ。何にしやす?」
「……………温燗」
「まいどっ。すぐお持ちしやすっ。」

「いやァ〜奢ってくれるなんてさすが幕府の犬だなァ。いやマジで俺も助かるよ。そろそろツケもきかなくてよォ」
「奢るなんて言ってねェ。使ってねェならその耳斬り落とすぞ」
銀時は軽く舌打ちしお猪口を煽った。その光景を見て土方はありえない量の空気を口から吐き出した。…もう飲もう。どうせ明日は非番だ。少し多めに飲んだってイイだろ。そんで頃合いを見計らってさっさとずらかろう。役人のくせに明らかに金を持っていない銀時に勘定を押し付ける気満々で土方は運ばれて来た酒に口をつけた。

テーブルの上には店の親父がお詫びにと寄越した料理が何品か並びさらに銀時と土方が頼んだものも加えるとなかなか充実した食卓になっていた。
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