通常文
□ある晴れた日に、白い男は
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テメェが死んだら墓石真っ二つに叩き割って弔ってやるよ
うわ〜…意味わかんねェよ。そう呟き軽く軽蔑した目を向けると勝ち誇ったように男は煙を吐き出した。イヤだから全然意味わかんねェから。全然上手いコトとか言えてねェから。
…俺は結構イイコト言ったぜ?
血を浴び戦場を駆け回ったのはすでに十年近く過去で、握る真剣は木刀へと代わりそれすらもあまり活躍しない暢気な日々がゆるゆると続く。
後悔や反省が悪夢となり汗でシーツをびっしょり濡らす夜もたまにはあったが今の暮らしをひっそり愛でている。
大切な仲間はガキだけど俺についてきてくれるし衣食住にも、まあ一応困らない…と思い込んでいる。
そう。俺を心底悩ますモンはない。アイツ以外は。
全身黒で瞳孔開きっぱなしのヘビースモーカーのあの男。
真撰組が憂き目に合い、おそらくドタバタしているだろうなと思っていた時偶然市中で彼に出くわした。やはり大変なのであろう目の下にはくまがあり少し頬もこけているのが遠目でもわかり思わず視線をさ迷わせた。
さて何を話そうかと少し思案した時彼のほうから切り出してきた。
「久しぶりだな」
彼の声を聞いたとたん自分のらしくない緊張や戸惑いがストンと体の下に落ちたような錯覚を覚え、すぅっと力が緩むのを感じた。
「近藤と沖田のこと聞いた」
「そうか」
彼らしいふてぶてしさで短く返されなんとなくほっとする。
「お前はどーすんの」
「明日から北へ向かうことになってる」
「…ふぅん」
そうか。んじゃあきっともう会えないな。ぼんやりとそんなことを考えるが実感が湧かないと言うか、彼が彼の道を行くのになんの反論も違和感もないので正直悲しみなども感じなかった。思考に気を取られていると目の前の彼がそれまで見たこともない顔をしたので表には出さずギョッとした。そこには皮肉まじりでも厭味くさくもない微笑みの表情が描かれていたのだ。
「テメェは相変わらずだな。俺ァ支度があるから行くぜ」
「あァそう。じゃぁな」
「あぁ」