通常文

□無糖V.D
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「ぁ゛〜…あれ?」

目覚てみるとそこはうっすら西日が差し込む我が家のソファの上。

無理な態勢で寝ていたせいかはたまた歳のせいか、身体の節々が鈍く痛む。

「おーい…」

ごきごきと首を鳴らしながら掠れた声で誰とはなしに呼んでみる。いや、目当ては間違いなくあのダメガネと胃袋娘なのだが、欠伸とともに徐々に覚醒した脳ミソが思い出した眠る前の一悶着が声を出すのを躊躇わせた。

昨晩、いつものように飲みすぎた銀時は、朝日もすっかり昇りきったころ自宅に帰還した。
もちろんベロベロのぐちゃぐちゃで、既に出勤していた新八に酷く疎ましがられた。中々帰らない銀時をひそかに心配し起きて帰りを待っていた神楽は、ソファで寝てしまったらしく不機嫌極まりなかった。

簡単に言えば、全員の虫の居所が悪かったのだ。

睡眠不足の神楽は暴れ狂って朝帰りの保護者を罵り、長いこと給料の支払いが滞っている新八は呑んだくれる雇い主を謗り、二日酔い、というか寝ずに飲み続ける暴挙に出て頭痛と吐き気の両方からしつこくストーキングされていた銀時は八つ当たり甚だしく従業員たちを責め立てた。

最終的に、見苦しい喧嘩の末ふたりと一匹は家を飛び出して行ってしまった。

「ンだよチキショー…」

二日酔い(ということにしておく)の揚げ句ソファでのふて寝はあまり気持ちの良いものではなく、銀時はのろのろと台所へ行き洗われていないコップになみなみと水を注ぎびちゃびちゃと服を濡らしながら一気に煽る。

「…メシー…」

ゆうべ、冷たい揚げ出し豆腐を食べて以降アルコール以外何も口にしていない。それ所かその揚げ出し豆腐はその後すぐ口から逆流してしまった。

冷蔵庫の中はもちろん何もない。カラシもキムコも使用期限切れだ。

情けない、とは死んでも思いたくない。

ガキとガチで喧嘩しておいて後悔なんて今更出来るか。

冷気がだらだらと流れ出る冷蔵庫の前で頭を抱えていると、ぎしっと床を踏む音が聞こえ、はっとすると同時に身体の横に衝撃が走った。

「何してンだ。大の大人がみっともねェ」

勢いよく閉められた冷蔵庫のドアに挟まれながら呆然と顔を上げると、台所の床に灰を落としながら苛々と指を遊ばせる某副長の御姿。


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