通常文

□初体験はテキーラの海で
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さきほどよりは喧嘩も挟んだせいか幾分熱は納まっていたはずなのに思い出してしまっただけでさきほどよりさらにズクンズクンと下半身が疼き出した。先へ進まないために離れたのに完全に裏目に出てるよコレ。放置プレイですかコノヤロー。
俺が珍しく常識的な立派な男性になろうと頭を抱えたとき隣の男は新たな煙草に火を着けようとしていた。思わず煙草がくわえられた口元を凝視しそうになり一気に目をそらす。静まり返った室内にライターをつける音が響く。カチカチ。あ〜静かだな。カチカチ。そーいや下は今日休みか。カチカチ。神経逆なでするカラオケやら笑い声が聞こえねェのは幸か不幸か…。カチカチ。

つーかカチカチカチカチうるせーなカチカチ山かテメーはァァァ 頭の中で突っ込むセリフを準備しながら横を向いた。

土方はまだ火を着けていた。
薄く色づく目元はライターを見つめ絵画のように整った横顔。軽く震えた指はアルコールのせいか老化か…緊張か。

カチッ。

ようやく火の灯った煙草の先を見ながら俺の頭はくだらないただの飾りになった。あ〜そっかそっか。この最後のカチッてのは俺のスイッチが入っちまった音、ね。

「…火ィ点けんの随分時間かかったな」

どこに落とし穴があるかわかったもんじゃねェな人生ってのは。ようやく火が点いた煙草を固まった土方から取り上げ灰皿に押し付ける。
「こんなもん邪魔なだけだぜ。煙いし苦ィし体に悪ィし」

つくづく男ってのは下半身と上半身が別々の神話のような難儀な生き物だ。がっかりするよ全く。

「…口使えねェし」

教訓も役に立たず、俺は再び土方の唇とともに新たな世界の扉を開けることになってしまった。

…ああチキショー。


END
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