通常文
□ある晴れた日に、黒い男は
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おまえが死んだらワンカップひとつぐらいは供えてやるよ。
ケッ貧乏人が。ニヤ〜ッとする相手にそう、返事をしたような気がする。
たぶん、そのとき自分も同じ問いに答えたはずだ。
俺は、なんと、言った?
目の前が真っ白で思い出せない。
剣にすべてを捧げ、なりふり構わず走り抜けた数十年は、たった一発の鉛玉により強制的に幕を下ろされることとなった。自伝でも出たらこんな一文で済まされるのだろうか。…心底下らない思考をしてしまった、と残り少ない時間の中でも後悔してしまう。
心酔し慕った友はすでに旅立ち、病に倒れた弟分はおそらく俺へと同じように敬意を抱いてくれていたであろう…いやどーだろう。アイツのことだからあの世で五寸釘でも打ってるかもしれねェな。だとしたら総悟、もうすぐ悲願達成だぞ。
近藤さん、すまねェな。俺ばっか戦場で死んで。あんたにゃキッチリ詫び入れるから。極上の酒でも呑んでもう少し待っててくれ。
そう。あんたらにはもうすぐ会える。
でも、アイツには、きっともう会えない。
銀髪でだらし無いあの男。
北へ発つちょうど前日いつものようにバッタリ出会った。先の質問はその時したものではなく大分前の話で今の今まで忘れていたのだが。その時はすっかり真撰組を取り巻く環境も変わり彼は珍しく目を逸らしたままで口を開くのが若干躊躇われた。しかしそんなそぶりは見せず平然と煙草を吹かした。
「久しぶりだな」
「近藤と沖田のこと聞いた」
「そうか」
「お前はどーすんの」
「明日から北へ向かうことになってる」
「…ふぅん」
それきり彼は興味なさそうに懐へ手を突っ込み腹をボリボリ掻いていた。思わず呆れ笑いが零れた。
「テメェは相変わらずだな。俺ァ支度があるから行くぜ」
「あァそう。じゃぁな」
「あぁ。」
それが最期の会話。俺達らしい。振り返ることもなく離れていった。逆に泣き付かれたり「ずっと待ってる」とか言われたらおもしれェかと思ったがすぐ鳥肌が立ち頭を振った。ありえねェ。
そして今、文字通りすべてを賭けて尽くした相手に逆賊として消される。