通常文

□東雲に背く狼たち
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知らず知らず殺気でも出してしまっていたのか、その黒い男はこちらに気が付いた。

「!…よお」

「どうも。土方さんも隅に置けないですね」

「はァ?」

「そちらの方彼女でしょ?別嬪さんですね」

「やだぁ〜!そう見える?」

「お似合いですよ」


ガキの割にツッコミらしく空気の読める新八のセリフだとしても

確かに
お似合いですよ

雑誌の読者ページにでもでかでかと載ってそうなくらい。そーゆうのよく知らねェけど。

少なくとも

少なくとも全然普通に街に溶け込んでますよそりゃあもう完璧に。

「あらトシ時間が…」

「あ、あァ…」

「今度は厄介事に巻き込まないでくださいね」

「…お前らも不審な行動すんなよ」

彼の腕にしがみついて軽く会釈する別嬪を引き連れ、いつものようにふてぶてしく煙を吐き出しながらすれ違っていく。

「今日は喧嘩しないんですね。銀さんも気ィ遣ったんですか?」

「…まさかなんで俺が。オラさっさと行くぞ。アイス溶ける」

「あ。ちょっ…」




目も合わせない。

そもそも合わせる意味は?

ある?ない?


決定的で致命的な一文が頭に浮かぶと、続けて出掛ける前に観ていた昼ドラのワンシーンが蘇る。


男に縋り付きわざとらしいまでに涙を零しながら叫ぶ女。
『あなたにとってアタシはなんだったのォ!?』


「ぶはっ」

「?…なんですか?」

「…何でもねェよ」

あまりのミスマッチさに思わず吹き出すと同時に鳥肌が立ち、背筋がゾッとして寒くなった。キモいっつーの。



常識の壁 性別の壁 理性の壁 肉体の壁 は

意外と簡単に越えられても

心の壁だけは

なかなか どーして


自分で自分の心を自分から隠すことなんて

できねェじゃんか

だからこそ余計に
混乱する

認めたい?

認めたくない?


どちらかに決めなきゃいけないのか?


曖昧さはキモチイイ

目さえ逸らしていれば

オイシイところだけ食っていられる




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