通常文

□姫の機嫌を損ねるな
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「……と、とりあえず帰る」

青ざめると言うより血をなくしたかのように真っ白な顔をして、聞こえるか聞こえないかというか細い声を発し土方はがばりと立ち上がった。ギシリと軋むソファがなんとも間抜けに響く。

「えぇ!なんでヨゆっくりしてけヨニコ中!」

「はァ!?イヤイヤ…」

「…やっぱりただヤりにきただけ」
「ちちち違うって神楽ちゃん!ちょっおま頼むからゆっくりしてけ!よしとりあえずこっち来い!手が足りないんだよ!」

「ぉわっ…!」

土方が帰ろうとした途端、表情を曇らせ低い声で呟いた神楽を遮り、彼の腕をひっつかんで台所へ押し込んだ。

「何しやがる!?」

「そりゃこっちのセリフだ!あんなガキに何言わせる気だ!」

「あァ!?今更ナニ言ってンだ!確かにガキにゃ良くねェけど…そもそもテメェが教育なんて語れると思ってんのかマダオが!」

「イヤそりゃそーだけど!でもこれはいくら何でもマズイだろ!俺の立場が!保護者が真っ昼間っからセフレの男連れ込んでよろしくヤってるって!アイツの父ちゃんにバレたら殺される!てかアイツ本人に殺される気がする!」

「…ほぼ事実じゃねェか」

完全に肯定されなかったことに少しドキリとしたが今はそんなことを気にしている場合ではない。構わず小声で続ける。

「……まだ、真っ昼間から男の恋人とイチャついてる、の方が神楽のダメージは小さいはずだ。いやむしろアイツもそれを望んでるフシがある」

「……………ハァ?」

こうして不本意ながら保護者の威厳と男の矜持を賭けた極限の甘い時間が始まった。



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