通常文

□姫の機嫌を損ねるな
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「ん…はぁ…」

しかも結構なお点前で。
悲しいかな俺の舌はしっかり期待に応えてる。

目を閉じることもなくぽかんとしたまま離れていく彼の顔を見つめていると、不意にその口がぱくぱく動いた。

『アワセロ』

……どーいう意味?

「オイチャイナ。テメェもちっとは気ィ使え。俺ァ忙しくて中々休みがねェんだよ。…なァ?」

言った後、射殺しそうな勢いでこちらを睨む彼にゴクリと唾を飲みポンと膝を叩く。なるほど状況は読めた。

「あ〜…そう!そうだぞ神楽!俺と…トシ、くん、の貴重な逢瀬の邪魔すンなよコノヤロー!」

「あ…そっか。そうアルな!」

見たこともない神楽のうろたえる赤面にも驚きつつ、俺のセリフの最中にゴホゴホとむせ返る隣の男の臑をガツンと蹴り上げた。

慌てて立ち上がり出ていこうとする神楽に再び土方が声をかける。

「ちょっと待て!…コレでなんか好きなモンでも買え」

「…私そんなモンに釣られる尻軽じゃないネ」

「………そうかそりゃ悪かったな。じゃあ詫びと礼だ」

「?」

「お前の保護者借りる詫びと今後このことを誰にも言わず黙っててくれることへの礼だ」

視線が絡み合いギラリと光った男と少女の瞳に何故かいたたまれなくなって背筋がゾクリと震える。
えナニこのカンジ浮気現場押さえられて三竦み状態の中年オヤジみたいな。てか誰が中年オヤジだ。そもそも浮気とか違ェし。

「………チッ。しょうがねェナ。確かにまだまだ世間は冷たいアル。諭吉に免じて黙っててやるヨ!」

神楽は土方の指からピッと札を抜き取ると、その小さな手で巨大犬をひと撫でしてからくるりと向き直った。

「…でも銀ちゃんは飽くまで私のであってお前には貸してやるだけだからナ!覚えとけヨ!」

「…わかったよ」

フと片眉を歪めて目を細める土方に、神楽は一瞬苦し気に唇を噛み締めたが誰にも気付かれることなくいつもの様子に戻る。

ふたりは定春を連れて出ていく神楽の背を、蹴り飛ばしたいのを堪えつつ、相変わらず不気味な笑顔で見送った。



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