DARK

□無知少年と能無し男
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 少年と青年は、二人で何となく暮らしておりました。

 少年は大変無知で、歯の磨き方すら知りません。

 青年は大変能が無く、仲直りするときなど性行為しか思いつきません。

 二人は何気なく そんな死んだような生活をしておりました。


 そんなある日のことです。


「神田、これ見て」
「何、こんなもんは捨てろ」

 アレンの拾ってきた捨て猫に捨て台詞を吐いて、神田はあちらをむいてしまいました。

「俺はそいつがいけ好かない」
「でもまた捨てられるのは可哀相」
「お前は無知だな!そいつは俺たちが寝静まったら、殺すんだ!」
「何を殺すの?」

 神田は少し考えてから、

「わからんな」

 と言いました。

「わからないのを殺すなんて!それは僕には嬉しいこと」
「なんだって?」
「“無知(わからない)”を殺したら、無知は消える。僕は“無知”じゃなくなる」

 さも嬉しそうにアレンが言います。しかし神田は不満げです。

「無知を殺す?そうしたら知ることができなくなる!」
「いけないの?」

 アレンはなんだか不安げです。

「“できない”ことができてしまう!それは愚か者のすることだ!」
「できてたことができなくなる?スランプ?ランプ、トランプ!」

 アレンはどこからかトランプを取り出して、半分を神田に渡しました。

「婆抜きやりましょう」
「婆抜き!グランマの嫌う遊びだそれは」
「なぜ?」

 アレンはちょこんと首を傾げました。

「婆抜きってのは本当は、婆から何かを抜いていく遊びで」
「何かって何?」
「そりゃ“何か”なんだから何だっていいさ。例えば“歯”“爪”“胃”」
「へえ」

 少し感心したようにアレンが言いました。

「死因(ジョーカー)を抜いたら敗けだ」
「死因って?」
「そりゃあ“心臓”だろうが」

 神田は呆れたように立ち上がって、ソワソワしてからまたドカッと坐り込みました。

「お前は無知だから知らなかったろう。でもこれも、また忘れるだろう」
「それより、死因って何?」

 少年が首を傾げると、青年はにんまり笑ってこう言います。

「お前は性行為をしたことがあるか」
「性行為とはなんですか」

 少年は夜になるにつれ記憶を無くし、夜中になるころには、青年と初めて会った頃辺りまでの記憶が消えてしまいます。

 身体も毎夜、初めての身体に戻るのです。

「愛を知るんだよ」

 幼いそれを撫でてみても、少年は顔色ひとつ変えません。

「これは性行為ですか?」
「嗚呼、なんと無知」

 青年は優しく微笑みます。

「忘却こそ永遠の愛の秘訣と言えよう」


 このあと、青年はまた少年と暮らしはじめるのです。





 

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