DARK
□裏稼業
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一流の輸入会社の社長である神田さんに憧れて、僕は得意の数学を活かして会計係として入社した。
得意だからといっても、人より少しばかり苦労しなかった程度だから、会計係だからといっても一流の会社に入社するのは困難を極めた。
やっと入社できたときは、死ぬほど嬉しかった。
「へえ、社長に憧れてなあ…。まあ、ここの社員は皆たいがいそう言うよ」
「先輩はどうしてこの会社に?」
「俺は…そうだなあ、強いて言うなら」
給料がよさそうだったから、とラビ先輩はカラカラ笑った。
「神田社長にお会いしたい…です」
「あれ?会ってないん?」
「こんな一流会社だと、僕みたいな平社員は社長に会う機会なんてないですよ。社長さん、世界中飛び回ってるし…」
「ああ、なるほどな」
先輩は神田社長の幼なじみだそうで、平社員だからなかなか面会できないという意識を持ち合わせていないようだった。
「ま、あの社長は仕事ですら愛想悪いからな。会ったところでドギマギして終わりさ」
「仕事ですら…?」
「ああ。頭を下げるっつうことを知らねえ。
だのに商談はたいがい上手くいく。こんなせちがらい世の中で、そんな甘い話ってないよなあ」
ラビは嫉ましそうに眉をひそめた。
「もしかしたら有無を言わせぬオーラが…」
「あるけどな、それで筋の通る世の中なんてありえないんだぜ」
心底羨ましそうに、ラビはため息をついた。
「…いいよなあ。万事上手くいくやつってなァ、いるもんさね」
「え、でも先輩だって、そこらの国の上官と通じてるとか…聞きましたけど」
「俺はちゃーんと頭下げてる。世の中のルール守ってな」
ラビは、頭を下げずに伸し上がっていった神田がひどく羨ましいらしい。