DARK

□短篇集
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「やめてください」
「は?」

 他を見ないで。

「あんまり見ないで、じゃなくて、少しも見ないで」
「何を…」

 英国紳士が、日本人形のような彼の白い頬を 愛おしげに撫でた。

「浮気者ですね…どうして?」
「何を言ってんだか、わかんねえ」
「浮気は隠そうとするものですからねぇ…」

 白い紳士が、黒く笑った。

「あなたのその目に映っていいのは、僕だけなんだ」

 青年は目を見開いた。そして、目の前の紳士を凝視した。

「は…」
「あなたは二度と僕以外を見てはいけません。他人も物も、貴方の愛刀すらも」
「無茶言うなよ」

 あ、少し怒ったみたい。冗談だと思ったのかな?

「ねえ…君のその目を刳り貫いて、僕にください」
「…変な冗談やめろよ」
「冗談じゃないです」

 青年はやっと気付いた。自分を見ている紳士の目が、自分を映していないことに。

「やめろ…」
「刳り貫いたら、そしたら僕はあなたの眼球を見つめ続けます。毎日毎日、一生、見つめ合う。ああ、なんて素敵」

「やめろ!!」


 氣の触れた紳士よ、いったいどうしたというの。



THE END
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