長編
□本当を見せてあげようか
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おかしい、と思った。彼の四番のユニフォームを、あのおネエの人が着ている。何故かサイズがぴったり。
もう試合が始まるのに、彼の姿がコートに見えない。しかも、彼がいないのに人数は足りている。
「あの…赤司君、は?」
気になって仕方なくて、おネエの人に聞いてみる。すると、おネエの人は、ボクを――ボクを含めた、彼を除くキセキを憐れむように、小バカにするように笑った。
「あの子はコートには立たないわ。立てないのよ」
「え…?」
彼がいない異変を察知してか、他のキセキ達がここまで下りてきた。みんな、キョロキョロと辺りを見回して、あの赤い頭を探している。
おネエの人はそんなボクらを尻目にしてからずっと入り口を見ていた。そこに彼が現れるのだろうか。ボクらもいつしか、入り口を見つめていた。
…数十秒は経っただろう。入り口の影の中に人影が現れた。人影は会場の光に照らされ、次第に色を見せてくる。人影に色が付く前から、ボクらは予感していた。
やがて人影が完全に光の下に来る。人影の正体は、予感の通り、ボクらの捜し人だった。
「待たせたね……ん…? テツヤはともかく、どうして真太郎達までここにいるんだい? 観客席にいるんじゃなかったの?」
「…え……あ、かし、…くん…?」
肩と肘の真ん中辺りまで伸びた、上の方だけを二つ結びにした赤い髪。
華奢な体躯は中学の頃から全く変わっていなくて、男子でその体格はおかしいくらいに細い。
身に纏っているのは、薄茶のワイシャツに黒いネクタイ、焦茶のブレザー、スカート、黒いニーソックス――靴下の丈は自由らしいから別としても、それは、洛山の、女子の制服。
不適に笑う綺麗で可愛らしい顔は、ボクらの知るその人のもの。
現れた捜し人。
ただ、その人は、「彼」ではなく「彼女」だった。
「やっぱり驚くかい? …言っておくけど、女装じゃないからね」
クスクスと彼女は笑う。
ボクは未だに信じられず、震える唇を開けた。
「WC初日…髪、短かったじゃないですか。洛山の四番のユニフォームを着てたじゃないですか。男だったじゃないですか…!」
「玲央のユニフォームを借りていたんだ。髪はカツラだよ。ちなみにつまり、あの時切ったのはカツラの髪だ」
後ろから葉山さんに抱きつかれながら、赤司……さんは言った。その光景はかつての赤司さんと紫原君を思い出させた。見ると、紫原君は思い切り葉山さんを睨んでいる。
緑間君が眼鏡の位置を直しながら前に進み出た。
「今まで試合に出ていただろう。今回も、オレ達秀徳を負かした。なぜいきなり、コートに立てないと言うのだよ。なぜ今カミングアウトした」
オマエが言ったのか? とでも言うように、赤司さんはおネエの人を見た。おネエの人は「ごめんなさい征ちゃん」と両手を合わせた。赤司さんは無言で首を振った。
「父に無理を言ってバスケ協会に頼んで、出させてもらっていた。けどもうそんな我が儘を聞いてもらうのは限界だから」
女の僕は、公式戦のコートには立てない、と。
憤るように悲しむように、悔しみながら彼女は言った。
「WC前のあの時バラさなかったのは気紛れだ。なんとなく、この場でバラしてみたくてね。ちなみに、今の僕の名前は赤司征華だ。役所に行って、ちゃんと変えた」
彼女は女でも、ボクの理解の一歩先を行っていた。
楽しそうに微笑む赤司さんは、表情を変えないまま目線を強くした。
「なんだか、みんな、僕が男であってほしかったような反応だね」
だってそうだろう。女の赤司さんが嫌、というわけではないけれど。
公式戦に出られなくなる赤司さんを前に、そのバスケを否定したボク。バラバラになったみんな。
みんなでやる楽しいバスケを、赤司さんから奪ったのだ。
非公式戦でなら赤司さんともバスケできるけど、公式戦には公式戦の興奮がある。その興奮を楽しむ機会が、赤司さんには残されていなかったのに。
女でありながらキセキの世代の一角である赤司さんは、女バスの世界では青峰君のように孤立してしまうだろう――このままでは。
バッシュの紐を確認する。緑間君のように右から結んだわけではないけれど、ちゃんと結ばれている。
僕より低い位置で笑う女王様を見下ろす。
「見ていてください、赤司さん。ボクらのバスケを」
「僕が育てたコイツらが負けるわけない」
ボクらだって、キミに育てられたんですよ。
その言葉は試合終了まで取っておこう。
ボクは宣戦布告を込めて、彼女と彼女の新しい城を見つめた。
END.
* * *
ちょっと意味が分からないですね←
喋らなかった黄青紫ごめんさい。途中から赤司と黒子以外がほとんど空気。
赤司のカミングアウトにびっくりするキセキver.1(シリアス風味)でした。