短編2

□だって大好きだから
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 夕日の見えない薄い暗闇の中で微睡んでいたら帰ってくるのが、僕のご主人様。今日も今日とてご主人様のベッドでうとうとしていたら、玄関が開く音がした。それを真っ赤な三角の耳で捕らえ、その瞬間、僕は飛び起きて部屋を飛び出す。


「おかえりっ!」

「ただいまー……って征! 重い重い重いおめーよ!」

「大輝が待ち遠しかったから仕方ないよ」

「んだその言い訳…」


 ご主人様――大輝がリビングへ向かうから、その腕に半分ぶら下がりながら、僕も歩く。嬉しくて、ピンと伸びた尻尾が揺れる。大輝はお母様に「飯」と一言言った。お母様は、もっと言い方を考えろと大輝を注意しつつ夕飯を用意する。僕と大輝のもの、二人分。大輝はいただきますもそこそこに食べだした。僕も、大輝のものと大体同じ自分の夕飯を食べだす。猫の僕に食べられないものは除外されているゴハン。


「大輝は食べるのが好きだね」

「おお。昼飯とか抜いたら死ぬわ」

「…し、ん、じゃうの……?」

「ぶはっ。死にそうな顔すんなよ、冗談冗談。死ぬほど辛ぇけど死なねえよ」


 それを聞いてホッとした。死ぬと聞いた瞬間に胸に生まれていた、心臓を掴まれたような痛みは消えていた。

 ゴハンを食べ終えたあとはお風呂に入った。大輝は一緒に入ってくれない。お風呂に入ったあとは眠った。大輝は、ベッドには一緒に入ってくれる。たまに明け方まで寝かせてくれないけど。



* * *



 目を開けると大輝はいなかった。どうやら寝坊してしまったらしい。目覚ましで確かめた時間は、十時。大寝坊だ。
 欠伸もでないくらいすっきりした体で一階に下りると、パートに出る準備をしているお母様がいた。寝坊を恥ずかしく思いながら挨拶する。そして、テーブルに置かれた紺の布袋を発見した。これは確か、


「大輝のお弁当…?」

「そうなのよ、忘れてっちゃったみたい。財布も置いていってるし、私は仕事だから届けてあげられないし、大丈夫かしら…」

「…………僕が届けます」


 え、とお母様が目を見開いた。僕が一人で外に出たことがないからだろう。いつもは大輝と一緒だ。大輝は僕に、一人で外に出るなと言っていた。けれど大輝が死ぬほど辛いのは嫌だ。
 少しの間驚いていたお母様は、すぐに微笑んで地図を書いてくれた。僕はその間に着替える。ワイシャツは大輝のものにした。黒いズボンと猫耳フードの紺色のパーカーは僕のもの。フードで耳を隠し、尻尾はズボンにしまう。
 お母様から地図とお弁当を受け取って靴をはく。行ってらっしゃい、の笑んだ声に、緊張と遠足気分混じりに、行ってきますと応えた。



* * *



 シャツに付いた大輝の匂いに励まされながら歩いて、散々迷って、ようやく辿り着いた桐皇学園。校舎の時計を見ると、十二時半。迷いすぎだ――間に合った、だろうか。
 校門で様子を窺っていると、窓から何十人もの生徒がこちらを見ているのを見つけた。やがていなくなったと思ったら、昇降口からいっばい出てきた。状況を掴めず固まっていたら囲まれた。


「かっわいいい! 中学生?」

「誰かの弟? けどこんな可愛い子いねえよなあ。まさか義理の弟!」

「ね、ね、猫耳フード! うおおおおお!」


 揉みくちゃにされた。体のどこかしらに必ず誰かの何がが触れている、と言っても過言ではない。人がこんなに密集している中にいるのは初めてで酔った。お弁当を落とさないように抱き抱える。
 大輝にお弁当を届けるんだから、こんな人達に構っている暇はないんだから、退けと言いたいのに、声は吐息になって消えた。


「――――征!」


 大きな声がして、何故だか人混みが動きを止めた。そしてそそくさと校舎に戻っていく。残ったのは、僕と、大輝。


「…だい、」

「何でこんなとこにまで来てんだよ!」


 大輝と会えたこと、お弁当を無事に渡せること。そんな幸せが吹っ飛んだ。すごく怖い顔の大輝が僕の視界にいる。


「一人で出歩くなっつったろ」

「だ、だって、おべんと――」

「帰れ」


 大輝が死ぬほど辛いから、ゴハンが大好きだから、来たのに。嬉しい顔で褒めてくれるかな、ってちょっぴり期待していたのに。どうして。悲しい。悲しいよ。
 顔を歪め、大輝は背を向けた。呼び止められないでいたら、校舎に消えてしまった。動けずにいたら、


「赤司君」


 さつきがやって来た。



* * *



 さつきが「赤司君が来てるよ」と窓の外を指さすから見てみたら、人だかりがあった。真ん中には赤色。
 こういうことになるから一人では出歩くなと言ったのに、何でいるんだ。あんなに大勢が征を可愛いと知ってしまった。オレだけのアイツを、他の奴らが。
 すぐに人混みを散らせて征を怒鳴って帰らせて、今、屋上で寝転んでいる。後悔と苛立ちがない交ぜの胸が苦しい。腹減った。


「青峰君、届け物」


 いきなり登場したさつきが、紺色の布袋をオレの頭の隣に置いた。何でコイツが持ってんだ――そんな顔をしたら「赤司君が届けてくれたんだよ」と怒ったように言ってくる。アイツ、弁当持ってたのか。パーカーも弁当袋も紺だから見えなかった。
 征の泣きそうな顔が思い出されて、今すぐ家に帰りたくなった。



* * *



 大輝の部屋で、大輝のベッドで、大輝の毛布を頭からかぶって丸くなる。服はそのまま。涙はとっくに枯れていた。
 一人で外に出るのは、そんなに駄目なことだったのだろうか。出ないはずの涙がまた出てきた。
 ガチャリと玄関が開いた。お母様かな、と思いながらじっとしていると、足音がこの部屋の前まで来た。お母様、大輝の部屋を掃除してあげるのかな。そう思っていたらドアが開いて、お母様ではあり得ない低い声に呼ばれた。
 肩が震えた。恐くて布団に籠ったままでいると、大輝が話し出す。


「…弁当、さつきから渡された」

「…………」

「助かった。……あと、怒鳴って悪かった」

「…………」

「悪かったから、出てきてくれ」


 大輝には珍しい、弱った声とお願い。単純な自分は布団から出て、大輝の胸に飛び込んでいた。



* * *



「や、や…っ! ん…ぁ、ん…」

「お前、もう乳首もちんこも勃ってんぞ…エロ猫」

「あぁっ!? ふ、ぅ、大輝、むねやだぁ…っ」

「んーじゃ、こっち」

「ひにゃぁあっ!」


 摘まんで捻っていた乳首を弄り続けながら、大輝の舌が耳を這う。耳と、それと尻尾は、変になるからやめてっていつも言っているのに。
 根本をグリグリ押されたり、甘く噛まれたりしているうちに頭がボーッとしてくる。ついには尻尾までしごかれ、根本や先端をゴリゴリされる。


「ひ、ひゃう! う、ぁ…っは、あぁァッ! あ、は…っ」

「…征、足持ち上げとけ」

「んぁ、……こ…?」

「そーそー。あと『にゃあ』って鳴けよ」

「ん、にゃぁ……っひゃあんっ!」


 ここまで来ると思考回路が鈍って、大輝の言うことに大抵従うようになる。言われた通りに太ももを持ち上げて足をMの形に開いて、にゃぁ、って鳴いたら、お尻に何か入ってきた。どちらかと言えば温かくて、大輝のものより細い何か。見てみると、お尻に尻尾が入っていた。


「ひぁっや、やら、なにいれて…っ! あっあっああっ…! ひんっ! ぬい、てぇっ…」

「こんなにエロいのに何で抜かなきゃなんねえんだよ。つーかほら、『にゃあ』」

「ん、ぅ…にゃ! ニャ、にや、ぁ、あ、あっ、っみゃあ!」

「みゃあ、っておま……サービスしすぎじゃね?」


 嬉しいけど、と大輝は笑った。頭がボーッとしているからだけじゃないんだ、僕が言うことを聞くのは。聞けば大輝は喜んでくれる。大輝に嫌われるのが僕の最高の不幸で、愛されるのが、最大の幸せ。
 解されたお尻から尻尾が抜かれた。代わりにぴとりと宛がわれたのは大輝のもの。入り口もナカも擦って入ってくる。


「…お? お前なんでオレのシャツ着てんだ?」

「いっ! ひ、ぃ、…いまさ、ら……ぁっ」

「うっせ。で、なんでだ?」

「大輝と、ね、…はひっ!? いっしょ、ひにゃぁっ、歩いてる気、なれるか、ら……あっ、んあアッ!」

「……げ、マジかよ…」


 分かりづらく顔を赤くして、大輝は額を手で押さえた。深い青の目が隠れてしまう。僕のお尻の中とお腹には、白い液体があった。大輝が出して、その衝撃で、僕も。


「どうして恥ずかしがるの?」

「こんなに早けりゃそりゃ恥ずかしいわ。ったく、お前があんな可愛いこと言うから…」

「大輝ならどんなでも好きだから恥ずかしがらなくていいのに……ふぁっ?」

「よし、またすげえこと言ってくれたお陰で勃った」

「え、やだ、もうシたくな…っひ、や、抜いっ…」


 ナカを圧迫されて、僕にも快楽が戻ってくる。それを感じ取っているのか、大輝は意地悪く笑いながら尻尾に手を伸ばしてきた。嫌だって言っているのに。
 けれど大好きだから、逆らえない。



END.









* * *
ちょっとだけ赤司の言葉を幼くしてみたつもりだったりするのですが、でうでしょう。好きだから青峰の言うことをついつい聞いちゃう赤司。何だか赤司にご主人様がいるというだけで悶えられるのは私だけか…?
リクエストありがとうございました!

 

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