短編2

□心臓が凍るかと思った
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 体育館の隅でドカバキと鈍い音が響くのを、音の発生源の半径三メートル内にいる部員は聞いていた。いつものことすぎて、自業自得すぎて、「ご愁傷さま」とすら思えない。
 発生源の片方――灰崎が、苦しげにしながらも半笑いでもう片方の赤司を見上げた。這いつくばっているゆえに灰崎の顔は異常に低い位置にある。


「いつもよりひでーんじゃねェの、新キャプテン様よぉ」

「今日はいない虹村さんの分もやったからな」

「そんなとこまで真面目にすんなよなぁ…」

「何を嬉しそうにしているんだ。マゾか」

「ちげーよバカ!」


 バカにバカと言われるとは。ムッとして、赤司は一方的な暴力から一方的な口喧嘩へと段階を移す――
 と、肩に手が乗った。やけに白いと思ったらテーピング。誰の手か理解すると同時に、その手の主から声がかかる。


「…付き合ってほしいのだよ。練習に」


 振り向いて、自分と同じくらいにムッとしている緑間になぜ倒置法なのかと笑う。遊び半分、悪戯半分に彼の右手にあるボールを奪う。次はサボるなと一応は心をこめて言って、灰崎のことは意識から切り離した。歩いてドリブルし、体育館の空いているスペースへ行く。途中、まだムッとした顔をしている緑間をからかってみた。


「焼きもちか、緑間?」

「違うに決まっているのだよ! ……だが、あまりアイツには近寄るな。二人きりになるとかも……」

「やっぱり妬いているじゃないか」

「ち、違うのだよ!」


 否定しているが嘘だと丸分かりだ。顔が真っ赤である。
 練習するのに丁度いい場所で距離を空けた。普通より速いパスを送りあって練習する。そして、直前にした雑談の名残を、ボールを受け止める度に消していった。



* * *



「なあ、オレに説教なんか意味ねえって分かんねえの?」

「説教されて自由な時間が減るのは嫌だろう? 意味はそっちにある」

「わーやだコイツー」


 時間の拘束、それさえ出来れば無意味な説教はしない。赤司は部室から出られない灰崎を放って部誌を書き始めた。灰崎が外に出ようとするなら全力で阻止するつもりだったが、意外にも灰崎は大人しくしていた。
 従っているならそれでいい。次第に机を挟んだ向こう側にいる灰色頭のことを忘れて、部誌に没頭していく。主将の仕事には慣れてきたが、部誌には毎回頭を使う。
 殴られでもしない限り頭を部誌から戻さないくらい集中していた赤司だが、その部誌に影が落ちればさすがに現実に戻ってくる。見ると、向かいでだらけていたはずの灰崎が真横に立っていた。


「何だ、もう限界か――、っ!?」


 揶揄すると途中で飛びかかってきた。思いがけなすぎて反応が遅れた。動けたのは背を机に押し付けられた時からで、降りてきた唇は手で防げた――と思ったら一瞬で無理矢理引き剥がされ、抵抗むなしく口付けられる。蹴り上げようにも灰崎が足の間にいて上手くいかない。


「く、っぅ、やめ、ろ……!」

「! いって……」


 侵入してきた舌を噛むと、さすがに離れてくれた。だが、代わりにとでもいうように、ネクタイがほどかれる。ボタンにかけられた手をどかそうとすると、両手を頭上で纏められた。勢いよく噛みつかれて、首筋がピリリと痛んだ。


「…何の悪戯だ。悪趣味にもほどがある」

「ばーか。イタズラじゃねーよ。緑間なんか止めて――」


 がちゃり。
 いきなり出てきた緑間という単語に軽く驚いていたらドアが開いた。開けた人物はノブを握ったまま固まった――が、数秒で顔つきを変えてつかつか歩み寄ってきて、赤司に覆い被さったままの灰崎を殴り飛ばした。
 腕を引かれて引っ張り起こされた。あっと思う間に、その腕の中に閉じこめられた。――まるで、灰崎から隠すような。


「……出ていけ」


 聞いたこともない低い声だ。そっと伺うが、彼の――緑間の表情は影になっていてよく見えない。


「…………けっ。王子サマのご登場か」


 殴られた頬は真っ赤だが気にもしない素振りで、灰崎は出ていった。ドアが轟音を立てて閉められる。
 二人きりになった部室で、赤司は礼を言おうと緑間を見上げた。若干気まずかった。灰崎を殴った彼の手も心配だった。


「……大丈夫だったか?」

「ああ。お前のお陰だ。ありがとう」


 それよりも手は――そう続けようとしたが、言えなかった。物理的に口を塞がれたわけではない。いきなり床に押し倒されて驚いたからだった。
 みどりま、と驚きのあまり拙い呂律で呼んでみても、返事は来ない。ただ、端正な顔がゆっくり、どこか性急に近づいてきて――
 灰崎に噛みつかれた場所に、歯を立てた。


「ぃっ、……ぁ、みど、りま……? っ!?」

「――だから、二人きりになるなとあれ程言ったのだよ」

「え…?」


 どういう意味か、の意味を込めて返すがやはり、応えはない。とにかくこの体勢から抜け出そうともがくが、灰崎にされたように手を纏められた。器用に片手でボタンを外していく緑間に本格的に焦る。


「緑間、落ち着け。ちゃんと話し――ぁ、っひ」

「断るのだよ。それにな赤司、言ってもお前は聞かなかったのだから、行動で分からせるしかないだろう」

「や、やだっ……あぅ、っんん」

「もう乳首が尖っているのだよ。灰崎にされて多少なりとも感じたか?」

「ばっ、ちが……!」


 ずっと、熱い舌が乳首をなぶっている。音が立つくらい吸いつかれたかと思えば軽く歯を立てられる。刺激が変わるたびに体は痙攣のように震えた。
 やっと唇が胸から離れてくれたかと安堵すれば、首筋をもう一度噛まれる。テーピングをしている方の手が乳首を弄りだす。膝が自身をぐりぐり刺激してきた。


「だ、めっ! みど、…っそこ、痕が見え……んぁぁっ」

「問題ないのだよ。灰崎の痕が元からあったからな」

「ん、やっ……いた、っ」

「…………」


 強く歯を立てられて反射的に悲鳴を上げたら、噛み攻撃は止んだ。代わりに似たような強さでぢゅうと吸い上げられる。
 体の力がほとんど抜けているのが分かったのか、両手を解放された。試しに厚い胸板を押して退けようとしたが、びくともしない。
 弱々しく抵抗している内に、スラックスと下着を取っ払われた。


「はっぁ、んう……っみど、みどり、ま…っ、やめ、はぅっ…!」

「……まだ分からないのか? どうしてこうされているか」

「ひっ……わか、分かん、ない! ぁはあっ、あ、…なんで……? っふ、ぁ、ぁあっ!?」


 尿道口に爪を立てられて軽く達してしまった。薄い余韻に浸っていると、後孔に先走りや精液で濡れた指の腹が押しつけられた。


「んんっ…は、ひっ……、ひやっぅ! みどりま、わかん、な…ぁ、ど…して」

「……その状態では思考力も鈍るか」


 順々に増えていた指が乱雑に抜かれた。指に内壁がついていくような感覚に身震いして目を強く閉じる。熱い性器が当てられた時、薄く開けた目から新しい涙が零れた。ぼやけた視界に映る緑間の顔は相変わらず険しい。


「…っやだ、こんな……こんなの、いやだ」

「っ…………赤司……」


 行為が始まって初めて、緑間の表情が変わった。目を見開いて、我に返ったような顔。赤司は緑間のYシャツを掴んで、縋るように弱く引く。
 眼鏡をカチャリと鳴らされた。そして優しいキスを落としてくれた。緑間の首に腕を回して、赤司もそれに応えた。
 いつもの緑間だ。怖い緑間は少し怖かったからセックスもしたくなかった。が、いつもの、優しい緑間が相手なら、したいに決まっている。


「んぅ……は、ふ、ぅ…っぁ」

「――いれるのだよ」

「ん、来て――……ぁ〜〜〜ッ、あ、ぁ゛、ひっ…」

「…悪い、狭いな」


 十分に解していないことへの謝罪に気にするなの意味を込め笑いかけ、頬を軽く撫でてやる。ナカに収まった性器の体積が増した。


「みっ! みどりま、なんでおっき、く――あァッ! や、まっ……ひゃぁああぁっ!」

「悪い、我慢できんのだよ…っ」

「ひぁ〜〜っ、んっいい、みど、りまぁっ、も……とっ、…ふゃぁっぁああっあアッ!」

「赤司……赤司……っ」


 指の時のように、性器の動きに内壁がついていく。最奥に叩きつけられて絶頂を迎えると、緑間も性器を大きく脈打たせて達し、その衝撃にまた締め付けてしまう。
 ずぽっ、と胎内から性器が出ていく。少し感じて吐かれた息が、少し震えた。



* * *



「……結局、どうしてああしたんだ……?」


 鍵を職員室に返して、外靴に履き替えて、肩を並べて歩いて。校門を過ぎた頃、赤司はずっと気になっていたことを舌に乗せた。
 緑間は一瞬肩を強張らせ、諦めたように吐息を空気に溶かした。


「この前、灰崎に近寄るなと、二人きりになるなと言ったのだよ。なのにお前は……」

「……ああ、そういえば。なるほど。お前はアイツがあんな悪戯をする奴だと知っていたんだな」

「悪戯……」


 緑間が憐れみの目をどこか遠くに投げた。赤司はそれに気付かず、「なら忠告を無視したオレにも非はある」と冷静に分析していた。
 ふと、隣を歩いていた足音が消えたので、赤司も立ち止まって振り向いた。緑の瞳が強くこちらを見ていてドキッとする。


「すまなかった。完全に八つ当たりだったのだよ」

「……まあ、それは怒っても仕方ないとは思うよ。だから許す」

「……オレが言うのも何だが。簡単に許しすぎなのだよ」

「お前だからね――ほら、帰るぞ」


 もし、あんなことをしたのが緑間以外の誰かだったら、もっと傷ついただろう。もっと怒っただろう。けれど緑間だから、傷も怒りも皆無だ。最後は元に戻ってくれたし。
 踵を返す前に、色々噛み締めた顔の緑間に抱き締められた。一応、暗くて誰もいないが外なのに珍しい――嬉しくないわけなくて、赤司も腕を、広い背中に回した。





END.









* * *
ERO書いてていつも思いますが、喘ぎ声って難しい……。
緑赤で少しムリヤリ。ちゃんと「少し」になっているか心配ですが、ムリヤリ要素は入っていると胸を張って言えます! 灰→赤要素を入れてしまいましたが、地雷でしたら申し訳ありません。すぐに書き直します。
リクエストありがとうございました!

 

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