短編2

□騎士で王子で恋人な彼
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 監督に呼ばれたのは、練習も更衣も終わった時だった。さあ帰ろう、と黄瀬と並んで歩き出そうとしたら、赤司だけが呼ばれた。黄瀬は苦虫を噛み潰したような顔だ。


「そういえばお前、今日は仕事が入っているんだったか」

「ハイっス……次の電車に乗んなきゃ間に合わないっス」

「ならオレに構わず先に行け」

「ううー……赤司っちを一人で電車に乗せたくないんスけど……」


 中学生だから電車くらい一人で乗れる。しかも、毎日乗り降りしている電車だ。
 自分を箱入りと思っているらしい黄瀬の背中を蹴り、数メートル先にいる監督に駆け寄った。そっと振り向くと、黄瀬は渋々といった風に歩き出していた。


「監督。それで、用というのは……」

「次の試合の資料が手に入ったから渡しておこうと思ってな」


 監督の二歩後ろを歩いて、着いたのは職員室だった。そこで、捕捉と共に資料をもらう。用はそれだけだった。
 間に合うかもしれない。腕時計を見ながら思った。走れば、電車が出る前に乗れそうだった。

 運が良かったら黄瀬と会えるかもしれない。

 赤司を走らせたのは、その理由だけだった。



* * *



 甘かった。
 十両程ある車両、しかも人もたくさんいる中で、たった一人と会えるわけない。
 乗降口左の銀色の手すりを掴んで、赤司は溜め息を吐いた。いつもと同じ車両を使っているから、同じ車両内にはいるかもしれない。周りを見回したいが人がいすぎて無理だった。
 一本分早く帰れるのだから良しとしよう、と己を納得させて気を逸らす。


「…………?」


 尻に直前まではなかった違和感があった。誰かの手が当たっているような。
 定員オーバー寸前な車内では仕方ない。大体自分は男だから、そういうものの標的には選ばれない。そう思って、初めは気にせずにいた。


 …………おかしいな。


 手は意図丸出しで動き出していた。尻を撫で回して、下着の中に侵入してくる。危機感を持ったのは、自分が座席、壁、男で作られた三角形に閉じ込められていると気付いてからだ。背後の男は体格がいいようで、赤司の姿はすっぽりと隠されていた。
 尻を撫でていた手が前に移動した。まだ柔らかいソコをそっと握ってくる。


「ぁ……ッ」


 体がピクリと震えた。声が漏れた口を右手で押さえる。その間にも手は性器をなぶる。上下に擦られ、先端を爪で押された時、体から力が抜ける前にどうにかしないとまずいと思った。手すりから手を離して、止めようと男の手首を掴む――


「〜〜〜〜っ」


 掴む寸前、逆に手を包むように掴まれた。捕まった手が性器に伸び、強制的に自慰をさせられる。嫌なのに体は反応してしまう。
 ついに足から力が抜けた。後ろから抱えこまれる。体が更に密着したからか、相手の動きが大胆になる。シャツ越しに乳首をこねられ、耳殻を食まれ、生理的にも精神的にも涙が浮かぶ。


 いやだ、こんな、痴漢にやられて……感、じて。誰か――黄瀬……っ。


 助けてくれるわけがない。ここにいないのだから。

 達する寸前に手が解放された。口を押さえている手に重ねる。電車が駅に停まったが、赤司がいる方とは逆の扉が開いた。
 発車する。赤司の手を捕まえていた手が一旦離れた。ホッと息を吐いたのも束の間、何やらトロトロと濡れぼそった指が後孔を撫でる。


「ひやぁ……っ」

「あぁ、可愛い声だね……うなじもすごく綺麗だ」

「んっ……」


 うなじをべろりと舐められて鳥肌が立った。
 シャツ越しに乳首を弄っていた指が、シャツの隙間から中に入ってきた。指の熱さとかさつきをじかに感じて胸が震える。
 後孔は撫でられるうちに緩んでいき、ついにツプリと指の先端を呑み込む。


「ぁ……や……っ」

「オジサンのでっかいおちんぽぶち込んであげるけど、まずは解さないとね」


 首を振って拒否を示すが、指はどんどん埋まっていく。侵入を阻もうとキュウゥ、と締めつけるが、余計感じて終わった。足のガクガクが止まらない。
 指は一度抜け、また濡れて戻ってきた。塗りこむように内壁を擦ってくる。先走りと塗られた液体と腸液が、後孔とその周りを濡らした。
 何度も抜き差しする指がある一点をかすめた時、どうしようもなく体が跳ねた。


「ひぃっ、んん……っ」

「ここが君のいいとこなんだね。……ん? 嘘はいけないなあ。ほら、感じるんだろう?」

「〜〜〜〜っっ!」


 違うと首を振ったらグリグリとその箇所を指が押した。強い快感が体中を駆け巡る。両腕から力が抜ける。開いた口は痴漢の手が塞いだ。体と頭が熱い。
 内壁で動く指は四本に増えていた。


「こんなに締めつけて……ああ、本当に可愛いよ」

「ん、ぅ、……」


 アナウンスが、次の駅に近づいていることを教えた。


「ずっと想像してたんだ……君がどんな風に啼くのか、どんな風に感じてぐちゃぐちゃになるのか」

「ん……っんぅ、ん……っ」

「君がこれに乗るって知ってるから毎日毎日、僕も乗って……」

「んゃ、……っ、っぅ」

「今日はいつも邪魔してくる金髪の子がいないから、やっと君に触れた」


 気持ち悪かった。怖かった。前々から狙われてたなんて。
 金髪というのは黄瀬のことだろうか。いつも一緒に乗っている金髪は彼しかいない。
 黄瀬の顔が頭に浮かぶ。こんなに汚れた自分を知られたくなかった。

 電車が失速する。ここで降りて続きをやろう、と指が抜かれた。抱えこまれているのは変わらない。

 やがて電車が停まり、ドアが開いた。赤司は、男に連れられて降りるのだと諦めていたが、予想外にも降りたのは男だけだった。よろけて降りた男も新しく誰かに支えられた自分も、訳が分からないといった顔をしていた。


「大丈夫……じゃないっスよね」


 頭上から聞き慣れた声。まさかと思いながら見上げると。
 赤司を支えて、男を蹴ったのだろう足を下ろして。黄瀬がそこにいた。



* * *



 車内ではどちらも黙っていたが、次の駅で降りて歩き出して、口を開く。赤司は知らない駅で、黄瀬に半ば抱えられて歩いた。


「ほとんど最初から、赤司っちのことは見つけてたっス。人が多くて動けなかったけど」

「……きせは、アレを知っていた、のか?」

「……はいっス。いっつも赤司っちに手ぇ出そうとするから。だから焦ったっスよ。オレがいないのにあの時間のあの車両に乗ったら、今度こそアイツに何かされるんじゃないか、って」


 一本遅い電車なら、こんなことにはならなかったのだろう。
 しばらく歩くとトイレに着いた。人気がない駅のトイレは人気がない。そこまで汚くはなかった。
 状況を飲み込めないでいると個室に押しこまれた。黄瀬も入ってきて、狭い中向かい合った。


「きせ……?」

「……何されたっスか、赤司っち」

「……」

「お願い、教えて」

「…………おしり、なでられて……」


 さわりと、黄瀬の手が報告した場所を撫でる。それで? と低い声が耳元で言った。必死に、痴漢にされたことを思い出す。そんな記憶は掘り起こしたくないが、言う通りにしないと汚れた自分は捨てられるかもしれないと恐れた。


「……ここ、いじられて……オレの手でも、いじらされ、て」

「うん」

「ひ、ぃう……きせ、……や、イっちゃ――――!」


 指差した達する寸前だった性器は、黄瀬に数度しごかれて精液を飛ばした。黄瀬はすぐ後に、痴漢がしたように赤司に赤司自身の性器を擦らせる。達する一歩前で止められる。


「……そんで?」

「え、と……みみ、かまれて、っぁ、ちく、び、きゅって……」

「こんなふうに?」

「んんっ、そ……。ふあっ、きせ、なんでこんな、ぁ……っ?」

「赤司っち、どうせ自分が汚いとか思ってるでしょ。だから消毒っス。別に汚くないのに」


 図星を指されて頬にもっと朱がさす。甘く噛まれている耳が擽ったいし、気持ちいい。指に転がされる乳首は赤く勃っていて敏感だった。
 腫れた瞼に落ちた唇がまた、何をされたか聞いてくる。


「うなじ、べろんって」

「べろん」

「ひゃぁあ……っ」


 再現のように舐められた。今更涙がボロボロ零れる。
 今、やっと安心した。黄瀬は自分を捨てないし、汚いとも思っていない。汚れたと思いこむ自分の為にこうしてくれている。
 黄瀬の首に腕を回してしがみついた。熱い昂りが腹に押しつけられる。


「次は?」

「おしりの、あな……ゆびでなでられて、なかにはいって……なんか、トロトロってしてて」

「……さっきから言葉遣いが子供っぽいし、変だとは思ってたけど……薬じゃないスか、それ」

「くすり……?」


 はあ……っ、と熱い息を吐いて首をかしげる。頭が上手く回らない。
 ぐっ、と黄瀬が人差し指を入れた。確かに解されてるッスねと顔を歪め、指を増やしていく。


「ひゃうぅっ、きせ……っ、まっ、いき、なり、そこは……ぁあっ!」

「でも、ここまで解されてるし、イイトコ見つかっちゃったんじゃないスか? ココ、グリグリされた?」

「ん、ぁ、ふ、うん……っぐりぐり、された」

「やっぱり……。他には何かされたっスか?」


 思い返してみたが、「次」は黄瀬が助けてくれたから、ない。首を横に振る。
 後孔に、黄瀬の先端が埋まった。穴が勝手にビクビクと痙攣して締めつけた。黄瀬の腰に足を絡める。


「挿れて平気?」

「うん、だいじょ、ぶ……ぁぁぁぁああっ!」


 言った瞬間突き上げられた。体が浮いて、重力に従って落ちて、そこにぶつかるように突き上げられる。
 ナカにいるのが黄瀬だと実感したくて締めつける。頭上で呻き声がした。


「ちょ、何で締め――――っう、ごめ、出す……っ!」

「はぁっ、ぁ、ひ、ひぃんっ! オレも、イっ――んぁ、や、ふぁぁああ……っ」


 黄瀬の精液が腸に叩きつけられ、その衝撃で赤司も達する。
 しばらく息を整えてから、黄瀬が自身を赤司から抜く。頭と体の熱が引いていく。足に力が入らなくて前へ重心を傾ける。しなやかで逞しい体が受け止めてくれた。


「しょーどく、上書き完了! これで何も気にしなくていいんスよ!」

「……ああ。ありがとう、黄瀬」


 黄瀬の胸の中――世界で一番安全な場所に頭を預けて、ちょっとだけと目を閉じる。


 そして一瞬で開けた。



「黄瀬……仕事は……」

「………………………………あ」





END.









* * *
オチをどうしようか迷ったのです。最初は、タクシー使えば間に合うっスと言わせたかったのですが、字数がギリギリそうで……。
あとがきでこういう捕捉をするのは何となくイヤなので、黄瀬が間に合うか合わないかはご想像の方向で。。
黄赤のセックスよりモブ赤のセックスの方が多い不思議。痴漢を気持ち悪くするのを頑張りました。
リクエストありがとうございました!

 

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