短編2

□急がば回れ、焦って猛進
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 緑間の日課の一つは赤司との将棋、と言っても過言ではない。赤司の周りには常に誰かいるが、自分もその「誰か」の一人だが、その時だけは二人きりだ。その場に紫原や他の誰かがいることはあるが、赤司の目は緑間ただ一人に向いていて。二人きりの世界が構築されているのだ。


「赤司、今日こそはお前に――」

「赤司くん、帰りましょう」

「オレコンビニ寄ってお菓子買いたーい」


 黒子、紫原、その他青峰と黄瀬が赤司を囲む。一緒に帰ろう、と赤司を誘う。緑間の声は他の声に掻き消されて届かない。
 赤司を中心として作られた輪。その一歩外にいる自分。感じたのは疎外感ではなく、寂しさのような、焦りのような嫉妬だった。
 赤司とキセキは仲がいい。緑間自身も仲良くなれているつもりだ。五人とも同じくらい赤司と仲良しだから、誰がいつ、特別仲がいい存在になるか分からない。
 背の高い面々(一人除く)に囲まれた赤司がでも、とちょっと困った顔をする。こちらをチラリと見た気がする。もしかして、自分と将棋を指そうとして――。


「んだよ、用事あんのか?」

「ええー、寂しいっス」

「…………いや、大したことじゃない。帰ろう」


 ガンッ、と頭を中から殴られた気がした。赤司の言葉が脳内で繰り返される。


 ――大したことじゃ、ない。


 赤司にとって、自分との将棋は些細なことなのか。確かに自分は赤司より弱い。いつも敵えない。それでも赤司は楽しそうだったから、あの時間は彼にとってもそれなりに大切なものだと思っていた。
 それなのに。


 ……いや、赤司が将棋のことを言ったとは限らないのだよ。


 告白する勇気がない自分が嫌だ。
 赤司の目が一瞬こちらを捕らえたのは気のせいであってほしいと、願わずにいられなかった。



* * *



 赤司がいないのに将棋を指す気にはなれず、緑間も皆と一緒に帰り道を歩いた。紫原の要望通りにコンビニに寄り、せっかく寄ったならと言わんばかりに全員アイスを買う。多少行儀悪くも年相応に、歩きながら食べた。


「赤ちんのアイスうまそー。ちょーだい」


 紫原が、赤司の白い棒アイスを一口食べた。紫原にしては小さいその一口に赤司が笑う。


「遠慮なんかしないで食べていいぞ」

「いーの、赤ちんのぶんなくなっちゃうし」

「少しいただきます、赤司くん」

「あ、赤司っちのちょっともーらいっ」

「どんな味だ――へぇ、うめぇな」


 黒子、黄瀬、青峰が赤司のアイスにかぶりつき、赤司の分は残り一口になった。紫原が眉をひくつかせる。赤司はおかしそうにクスリと笑った。
 優しい、母親のような目でキセキを見る赤司は幸せそうで、楽しそうで。自分だって赤司のアイスを食べてみたかったりするのに、残り一口では出来るわけない。
 楽しそうに進むキセキについていくように歩き、分かれ道で立ち止まる。緑間と赤司は右、他は左だ。


「……悪いな、あまり話せなくて」

「お前が謝ることはないのだよ。俺も気にしてなどいないしな」

「そうか、うん……」

「それにしてもアイツらはお前が好きだな」

「うん、まったく可愛い奴らさ」


 嬉しそうに赤司は笑い、緑間を見上げる。その笑みはとても可愛らしくて、他の奴らが作ったものだと思うと憎らしくて堪らない。


「赤司、俺の家に来ないか? 話がある」

「……? 構わないが」


 疑いの欠片もなく、赤司は緑間の隣を歩く。二十センチほど下にある頭が無性に愛しかった。
 元から口数が多い方ではない二人の道は静かだ。ただし沈黙に気まずさはない。
 数分して緑間の家に着いた。両親はいつも通りいないし、妹も習い事であと一時間は帰ってこない。


「先に部屋へ行ってくれ。茶と菓子を用意するのだよ」

「ああ、おかまいなく」


 言いつつ赤司が階段を上がる。緑間はリビングの向こうにあるキッチンへ向かい、湯飲みに茶を注ぎ、木皿に金平糖を盛った。金平糖はラッキーアイテムだ。
 盆に湯飲みと皿を乗せて自室へ入ると、ベッドに腰かけた赤司の微笑みに出迎えられた。一度鼓動が跳ねるが、平静を装ってローテーブルに盆を置く。
 赤司ではないが、迅速果断――速やかに決断し、大胆に実行に移す。そう自分に言い聞かせ、立ち上がって一歩で赤司の前に立つ。
 何も知らない赤司は笑顔のままで口を開いた。


「そうだ緑間、たしか――」


 小さな唇から流れる音は途中で切れた。大きな猫目が大きく見開かれている。
 二人きりの自室のベッドで、恋い焦がれた人を組敷いている。そんな事実に興奮を呼び起こされながら、緑間は赤司のネクタイに手をかけた。しゅる、とネクタイとYシャツが擦れる音が密やかで、また興奮を駆り立てる。
 ここで赤司が我に返った。


「――っな、みど、りま? 何して……!」

「すぐ終わるのだよ」

「は……!? 嫌だ、放せ……っぁ、やだ」


 暴れる赤司を片手で止め、もう片方の手でYシャツのボタンを外していく。腹と足の付け根の間に跨がって赤司を見下ろす。暴かれた白い肌は、部室で毎日見ていたソレより扇情的だ。顔を少し右へ向けた赤司の目が緑間へ向いている。


「緑間、一体どういう……」

「許す必要はない」

「答えろ、っゃ、ぁ……っ」


 一方的に言って、赤司の胸をさわりと撫でる。しっとりした肌の感触を確かめてから柔らかい中心に人差し指の腹を置き、回すように撫でる。
 赤司は辛そう、というよりは切なそうな顔でビクン、ビクンと体を跳ねさせた。


「みどり、ま、ぁ……っやめ、何か、変っ。へん、だからダメ、ぇっ……」

「嫌か? ならもう次に行くか」

「次、って――ぁ、やっ! どこを……!」


 最初で最後の行為だ。ある程度は自分の好き勝手にしたかったが、赤司が嫌がるなら仕方ない。「ダメ」を聞く余裕がいつまで残っているかも分からないのだし。
 というわけで赤司のスラックスと下着を脱がす。傷一つない白く綺麗な足が、中心を隠そうと閉じられる。それを無理に開き、緑間は赤司の姿を目に焼きつける。火照った頬も流れる唾液も、結果的にM字に開脚した卑猥さも、なるべく長く記憶に残せるように。
 そして、半ば勃ち上がっている赤司の性器に手を伸ばす。


「やめ……っや、汚いだろ――っふぁ!」

「汚いわけないのだよ。……随分と可愛らしい。馬鹿にしているわけではないが」

「ん、や、ぁっ、さわ、るなぁっ!」


 一度達させても良かったが――その方が良かったろうが――緑間は赤司の性器から手を離し、潤った指で固くすぼまった後孔に触れた。グニグニ押して入り口を解し、爪の先を差し込む。侵入を阻もうとしているのか、差し込んだ一秒後に内壁が収縮した。


「やっ、やだぁ……っきたな、っい、ひぁ……っう、ぬい、てっ」

「もう少しで終わる」

「っねが、やめ……っぁああっ!」


 もっと長く続けたいが、赤司にとって今は地獄だろう。だから性急に奥へ進んで前立腺を探し当てる。様子を見て本数を増やし、切り揃えた爪で引っ掻いたり軽く抉ったりすると、赤司は背中も喉も反らして啼いた。見開かれた目から新しい涙が次々流れている。


「み、みどりま、そこやめ、やっぁ、……おかし、ぁあっ」

「気持ちいいだろう? そこはそういう場所だからな」

「ひ、んっ……ひぃ、あっ、はぁ」

「……悪かった。これで終わりなのだよ」


 指を引っこ抜いて己の性器を取り出す。解した後孔に宛がうと、赤司はまた穴を締めて抵抗した。そこまでの拒絶を目の当たりにしても、今更やめられなかった。今やめてもやめなくても、今後の赤司との関係が良くなるわけもないのだから。
 弱々しい抵抗ごと赤司の体を押さえこみ、一気に奥まで突き上げる。


「っ、ぁ、いっぁぁあああっ! あ! ん、ゃ……や、め……や……っ」

「赤司っ……赤司っ……」

「ふ、ぇ――やあっ、ぁひ、……みど、ぃ、まぁっ、は」

「好き、なのだよ、赤司……っ」

「え? ――ぁ、ああっ、あああっ!」


 好きだと何度も想いを伝えながら赤司の性器を手で包む。数回しごいただけで呆気なく達した赤司がナカをきつく締めてきて、それに堪えられずに緑間も欲を吐き出した。



* * *



「……二つ、聞きたいことがある」


 ベッドに横たわったまま赤司は言った。もう後処理もあらかた終わった頃だった。
 ここで逃げるほど卑怯者になりたくなくて、緑間は床に立ったまま赤司に向き直る。嫌われることも憎まれることも覚悟していたが、やはり体は強ばった。
 赤司が仰向けに天井を見上げたまま口を開く。


「……どうしてこんなことをした」

「お前が、好きだからだ。叶わないならせめて一度だけでも、と……。最低な行いだと分かっている。何をしてくれても――」

「オレが聞いたのは理由だけだ」


 ぴしゃりと言い放たれて口をつぐむ。衰弱していても赤司のこういう力は強かった。
 天井を写していた瞳が壁を視界にする。しかし顔は動いていないから、緑間には赤司が口ごもる様子がよく見えた。


「……なら、最後の方、オレをす……好きと、言っていたのは」

「さっきも言ったろう。真実なのだよ――――赤司!?」


 寝転がっていた赤司が両腕を支えに座ろうとしていた。まだ本調子ではないのに。緑間は慌てて赤司を支えた。もうあまり触れないようにしようと思っていたのが、そうも言っていられない。しかし赤司は緑間の手に逆らい、座った。天井を、壁を見ていた赤い目が緑間を捕える。


「……お前は馬鹿だよ、緑間」

「…………ああ」

「言ってくれれば、こんなことにはならなかったのに」

「言って変わるものではないだろう」

「だからお前は馬鹿なんだ」


 くすり、と力ない笑いが赤司から溢れる。嬉しさだけでできた笑みではないが、ひどく穏やかな笑みだ。
 泣きすぎたからだろうか。赤司の目元――頬の辺りが赤い。緑間がその赤に気をとられている間に、赤司がまた口を開く。


「今日、お前と将棋を指そうと思っていた。青峰達が誘ってくれたから出来なかったが。大したことないなんて思ったことはない」

「あか、し……?」

「お前と将棋を指す時間はすごく大事だ。お前と二人の世界にいる気になれるから」


 心臓がドクン、と鳴いた。期待してはいけないと思うのに、抑えられない。
 緑間。赤司が名を呼んでくる。


「なあ、今日のことは許してやる。オレもお前が好きだから」


 果たして期待は裏切られず。焦げるほど焦がれた赤司が、望みに望んだ言葉を告げて、緑間の腕の中にそっと入った。
 許すと言われても自分がしたことは最低なことで。緑間は腕の中の赤司を抱きしめられずにいた。


「許すと言ったんだからあまり気にするな」

「しかし……」

「緑間。確かこの部屋には将棋盤があったな」


 時間があるなら一局――そう誘う赤司の笑みは、今までで見たことがないくらいのとろけるような笑みで。ぽーっと見とれながら、緑間は頷いた。





END.









* * *
赤司心が広いです……まだ罪悪感がある緑間の心を段々軽くしていくのでしょう。
緑→赤要素はもちろん、緑(←)赤要素も密かに入れたりしてみました。気付いていただけたなら幸いです。
リクエストありがとうございました!

 

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