短編2

□赤い色を輝かせて
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同棲+成人済み



 リビングでソファに座りながら月バスを読んでいる最中、視線を感じた。振り向くと、洗い物中のはずの赤司が椅子に腰かけてこちらを見ている。そういえば水の音はいつからか消えていた――雑誌に集中したからかもしれないが。


「どうした?」
「……いや。何も」
「……ふーん」


 珍しく歯切れが悪い。何かあるのだろう。自分には言いづらい何か。
 そんな様子が数日続いたので、ふとした折に黒子に電話した時、そのことを伝えた。理由を知らないか駄目元で聞いてみる。
 受話器の向こうで黒子は束の間黙った。次に、溜め息混じりの声を出す。


『まだ伝えていなかったんですね……』
「なんか知ってんのか?」
『ええ。彼の誕生日、ボクらで飲み会でもしてお祝いしたいと誘いました』
「え、赤司に……?」


 聞けば、黒子達もさすがに当日は赤司と火神で過ごしてほしいと思っているらしい。しかしその日しか全員の予定が合わないという。赤司に、もちろん火神を優先してくれてかまわないと言いつつ誘いを入れたのだとか。
 滅多に揃わない友人達と恋人では天秤にかけづらい。赤司が悩むわけだ。


「悪い! 二十日、アメリカの友達が日本に来るみたいで、一緒に飲みたいっつってるんだ……!」


 両手をパン、と合わせて、大声で。火神は黒子と電話した日の夜、赤司に嘘を吐いた。赤司を見ることができず、合わせた両手をひたすら見つめる。赤司は数秒だけ沈黙した。


「――そう。実はね、僕も黒子達に誘われているんだ。誕生日を祝いたい、って」


 だから気にしないで、と赤司は笑った。あまりの普通の笑顔に拍子抜けした。ちょっとは残念そうにしてくれると思ったのだが――黒子達に会える喜びがそれを覆い隠したのだろうか。
 残念がっているのはこちらの方だ。気落ちした顔になるのを我慢し、申し訳ない顔を作る。楽しんでこいよと強がってみせた。



* * *



 一人で夕食を取り、赤司は今頃楽しんでいるだろうか、などと考えながら入浴した。チャイムが鳴ったのは、ニュース番組を右から左に流している時だった。夜の十時を回っているのに珍しい。勧誘だろうかと思いながらモニターを見ると、映っているのはここにいるべきでない人達だった。


「お前ら、何でここに……?」
「赤司くんが泣いちゃったのでお開きにして、送りに」


 黒子の言葉に、紫原に背負われた赤司の顔を見る。伏せられていて涙の跡どころか表情も見られなかった。
 泣いたとはどういうことなのか問いつめようとした時紫原から赤司を差し出され、受けとる。そこでようやく顔を見れた。子どもみたいな寝顔だ。さすがに涙は乾いていた。


「ほら、赤司っちって泣き上戸っていうか笑い上戸っていうか怒り上戸っていうか……あれ? 何なんスかね?」
「あれだな、飲むとすげえ素直になる」
「酔うと、悲しかったら泣く、楽しかったら笑う、怒っていたら怒るのだよ」
「せっかく誕生日なのに大我は友達に会いに行ってしまった、僕もお前達に会えるから別にいいし僕を優先してとか言わないけれどやはり寂しいね、ってボロボロ泣いてたよ」


 紫原の記憶力に驚くのは後にして、腕に抱えた赤司を見る。心なしか悲しげに見えた。
 赤司は酔うまでは本当に楽しんでいたようで、集まりが台無しにならなかったことが唯一の救いだ。キセキと黒子は、まとめると「赤司泣かすなよ」といったことを物騒な顔で言い、帰っていった。


「……たいが……」
「ん? 起きたか。気分はどうだ?」
「ふつう」


 冷えた赤司の体を暖かいリビングへ連れていく。ソファに横たえ、水でも注いでこようとするとしがみつれた。確かにひどく素直だ。赤司は酔うと素直になる、それを自分だけ知らなかったことについては置いておいて。しがみつかれたままの体勢は色んな意味できつい。赤司を潰さないようソファについた腕に力を込めるのも、立ちのぼる香りにくらくらするのも。


「たいが……はやく帰ってくるなら、言ってくれれば、ぼくだって……」


 横たわった辺りから目に涙を溜めだした赤司だが、ついにそれを決壊させた。赤司の涙を行為以外で見るのは初めてだ。体勢といい涙といい、どうしてそちらを想起させる。
 火神は親指で涙を拭ってやる。だがいつまで経っても止まらない。ぐずぐずと鼻をすすったりしながら、赤司は言葉を重ねた。


「べつに、ぼくと友達どっちが大事か、なんてわかりきってるから言わない……」
「どっちだ?」
「友達。かがみは友達が大事」


 変わった呼び方に頭を抱えたくなる。赤司が火神を火神と呼ぶのは、本気で拗ねたり怒ったり拒絶している時だ。
 酔っているからか普段からそう思っているのか、赤司は自己嫌悪を始めた。傍若無人で頭がおかしくて我が儘な自分は誰からも疎まれるのだと泣いた。
 初対面の人間に斬りつけるくらい暴君なのに心の内はこんなだなんてチグハグがもどかしい。まだ涙を生む目に唇を押しつけ、赤司を抱えあげて移動する。今度の行き先は寝室だ。


「……かがみ?」
「大我、だ」
「……嫌だ」


 嫌なのは名前を呼ぶことらしく、赤司はワイシャツを開かれても抵抗しなかった。たぶん、愛してほしいのだ。そんなのとっくなのに。
 数日前の情事の名残である、首筋の赤い痕。そこに音を立てて吸いついてから唇を下ろしていき、左胸の中心で止まる。潤んだ目がじっとこちらの動きを見てくる。


「は、ん……っかがみぃ……」
「大我だっての。何だ?」
「キス、っして、いっぱい」
「……何でだ?」


 可愛らしいお願いを断る気はないが気になって、色づいた突起からやや唇を離し、訊いてみた。赤司は顔ごと目をそらす。


「……いいから」
「……。ちゃんと名前で呼んだらな」
「…………なら、いい――っい! んん、っは、ぁあっ!」


 ぷっくりした突起に噛みつき、思いきり吸い上げた。口を塞いだ赤司の手の甲をシーツに押さえつける。
 手で引き続き胸をまさぐりながら、唇をまた下降させる。淡い桃色をした肌に口付けていく。お願いを聞いたのだと赤司は気付いただろうか。突起をコリコリ摘まむと体を小刻みにひくつかせた。


「ん、はぁ、はっ……ぅぁ、ひ! だめ、つまんじゃ……! ゃ、あっ」
「なんだよ、もうちんこ弄ってほしいのか?」
「ちがっ、ぁ、ぁはっん、ひ、やっ、ぅう……!」


 ズボンと下着を脱がせると、形を変えた性器が露になった。隠そうと閉じる足を割り開く。口づけ、むしゃぶりつく。頭の両側で強ばっている足がびくんと跳ねた。


「やっ、あ、ああっ……! かが……っぁ、かが、み、……っめ、だめ、はなし、ゃうっ」
「たーいーが」
「しゃべらな、っぃあ! やめ、きたな……っ」


 確かに雄のにおいはするが、不快ではない。すべすべした太股に頭が挟まれるのを感じながら舐め上げる。根本を舌先で擦ってやると赤司の声は高くなった。袋を手で弄びながら先端を吸うと、でる、と言いかけながら達した。
 喉奥へ走る精液の大半を飲み、残りを指に絡める。余韻に浸る赤司の蕾は、一度達したからだろう。ほんの少しだけ入り口を広げている。火神は薄く口を開けたそこへ指を一気に突き刺した。


「っひぅ! ぁあ、あ、んっ……ん! ひぃ」
「お前、やっぱまだ酔ってんな。ナカ熱い」
「あ、ふっ――ま、まって、まだ……ぁ! んんぅっ、ん、ひぁああっ!」


 やはり酔っている。いつもなら、照れて一言二言言い返してくる。
 思った以上にナカが解れていたので指を増やして前立腺へ伸ばす。しこりを揉んだり押したりすると、赤司は甲高い声を上げ、腰を揺らした。


「んは、ぁっ、あ! そこは――ああぁぁあ! っひ、ぁ……ひっ」
「……挿れるぞ」
「……ん、かがみ」


 指を引き抜き、十分解れた蕾に自身をあてがう。また名字で呼ばれて動きを止める。不思議そうに、ずっと涙を流している目が見上げてきた。


「お前が言ってた傍若無人とかって、大体あってるけど一個間違ってる」
「……っん、どこ、が」
「お前は好かれてるよ。黒子達からも、洛山からも。俺もお前が好きだ」


 入り口のひくつきをその身で感じ、その中へ入りたい衝動に耐えながら、火神は言った。赤司はまだ悲しげで、それをどうにかしたかった。


「……うそだ」
「なあ、お前、俺のこと好きだろ?」
「……わるい?」
「んなわけねえだろ。赤司――征。お前が惚れた男は、こんな大事なことで嘘吐くような奴か?」


 目が見開かれて涙が散った。悲しい表情が吹き飛ばされて首が振られる。そこまで確認してから、火神は限界になって自身を前へ押し進めた。一際大きく赤司の体が跳ねる。


「ひぁ、ああっ! ふ、ぁひ、っあ、――っああ、ぁああ!」
「っ征……きっつ……っ」
「やぁあ、んぅっ、は――っいが、……たぃ、が……!」
「っ……!」
「っひ!? これ、いじょ……は、むり、ふあ……っあ、あ、あああっ!」


 戻った呼び名に自身が膨らむ。赤司が更に高く喘ぎ、達した。強い締めつけに耐えきれず、火神も精を放った。全て出しきってから引き抜くと赤司が脱力する。
 火神は息を整えて座った。ズボンのポケットに張りを感じ、深呼吸する。まずは詫びないといけない。


「……悪い、あれ嘘だ」
「うそ……?」
「友達に会うっての。お前が黒子達に会うの迷ってたから……」
「……ばかだな」


 ふにゃりと微笑み、赤司は言った。本当に素直だ。笑顔に安心し、火神はポケットにしまっていた小箱を赤司に差し出す。目を丸くする赤司に動く元気はないようだったから自分で蓋を開けた。


「……これは……?」
「虫除け。誕生日プレゼント。プロポーズん時は、もっとちゃんとしたのやる」


 小さな赤い石が一つ埋めこまれた銀の指輪を、赤司の左の薬指に通す。赤は濃く、赤司の髪や目より火神のそれらに近い色をしている。
 赤司が首から上を動かし、薬指で輝く赤色を視界に収めた。


「……ありがとう、たいが。待ってる」


 囁くような声で言い、赤い瞳が閉じられる。眠った顔は幸せでいっぱいに見えた。
 火神は自分も寝そべり、己より二、三回り小さい体を腕で包んだ。心地よい熱が眠りを誘ってくる。腕の中の感触を一度意識してから、目を閉じた。



* * *



 赤司は酔っている間のことを忘れる質なのだろうか。翌朝になって火神を叩き起こした赤司はいつも通りだ。彼の性格なら昨夜の己を醜態を晒したと恥じるだろうに、その様子もない。
 まるで昨日もいつも通りの日だったように、今日のはじまりは何事もなく進む。赤司が作った朝食を取って、休日だからのんびりして。


「――恋人の誕生日においての自分の予定は、大事なことじゃないのかな?」


 のんびりを破ったのは、椅子に腰かけコーヒーを飲んでいた赤司だ。火神は十秒ほどかけ、言葉を咀嚼する。血の気が引いたのは当然、赤司が昨夜のことを覚えているからではない。怒っているからだ。


「あの、昨日のこと、覚えてんのか、ですか?」
「自分が何を言ったか、したかは忘れてしまうけれど、誰に何を言われたか、されたかは覚えているんだよ、僕は」


 話をそらそうとしたが赤司の怖い笑みは変わらない。冷や汗が色んな場所を流れる。自分の言葉を覚えてもらえているのは嬉しいが、それを噛みしめる余裕がない。
 どうしようを心中で連呼する火神に、赤司が笑みの冷たさを溶かした。赤い視線が彼の左手の、薬指の、濃い赤に滑る。


「……これに免じて、許してあげる」


 ソー、キュート。頬をうっすら染める赤司にまたしても心中で呟く。昨夜を思いだし、火神は、今度赤司を酔わせよう、と決意した。





END.








* * *
ハッピーパースデー第三弾。書ききれました……火赤久しぶりです。赤司様が湯豆腐メンタルですが酔ったからでけしてキャラ崩壊では。エロ入れたら長くなりました、字数がギリギリです。

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