短編2

□彼の原因
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 長すぎる勉強時間にしんどくなって甘える。すると赤司はそういうことは休憩時間に、と怒ったように照れたように突き放す――なんてことはなく。応用問題を解けたらご褒美――なんてこともない。
 そもそも、この絶対零度の空気の源である赤司に甘えるなんてできなかった。
 赤司の教えが上手い為、数学などの解き方は頭に入ったが、やはり苛々している。


「記憶すればいいだけの社会系まで成績不良なのは単なる怠惰だな」


 歴史ではこんな風に言われた。
 やっと訪れた休憩時間でも、話しかけるのさえ躊躇われた。色んな意味で地獄だった勉強時間が終わり、せっかくだからと赤司に手料理を振る舞っている時も、だ。


「来年度はこんなことにならないように」


 そう言って帰り支度をする赤司の腕を掴めたのは、勉強、休憩、食事中に使えなかった分の勇気のお陰だ。掴んだ瞬間振りほどかれそうになったが、ぐっと手に力を入れて耐えた。


「……なに」
「…………お前、俺のどこが嫌いなんだ?」


 眉を潜められる。何を言ってるんだコイツという意味にしては訝しさが足りない。つまり自覚があるのだろうか。


「会いたがらねえし、こっちに帰ること教えてくんねえし……他にも色々」
「…………」
「なんでなんだ?」


 もう腕は振り払われない。だからだろうか。やっと赤司に疑問をぶつけられて熱を持つ脳みそだが、激昂して怒鳴るという選択を取ることはなかった。
 赤司の両目は床に落ちている。彼と目が合うだけで心臓が暴れる火神は、だから、己の真剣な眼差しを十分に赤司の目に注げた。


「……君が悪いんだ」


 目線と同じく床に落とされた言葉は忌々しげだ。自分が何かしたのかと、火神は過去を振り返る。煮えたぎった目に睨め上げられ、途端に心臓が跳ねた。


「君が、……君が黒子達を救ったから……っ」
「えっ、黒子……たち?」


 つまりは黒子プラスキセキの世代。赤司はマイナスされているかもしれない。
 救ったのなら褒められることのはずだ。なのに赤司は怒っている。火神の頭はこんがらがった。
 まるで今まで静かだった分暴れるかのような――火山の噴火。今の赤司はそんな感じだ。


「僕が救うはずだった、なのに君が……!」
「そ、んなにいけねぇことか?」
「僕にとってはな。彼らの強“敵”になるためにしてきたことが全て、……彼らに恨まれたことも、無駄になった」
「は? 恨まれる?」


 思い返してみたが、赤司はキセキに恨まれるようなことはしていない。キセキも赤司を恨んだりしていない。
 火神に掴まれている腕とは逆の手が、火神の手ぶらな方の腕を掴む。痛みに耐えるように指先が食い込んできた。


「彼らの壁を大きくして恨まれても、僕が彼らを救えれば、僕はむくわれたのに」


 それなのに自分が救った。火神には救った自覚なんてないのだが、事実はそうであるらしい。


「それに彼らは君をすごく好いている。僕のことより君のことを。今回の勉強だって、五人全員が君のために僕に頼んだんだ」


 勉強は嘘だったわけだが。
 話を飲み込むにつれ火神は悲しくなってくる。どうやら自分は嫉妬されているようなのだ。恋人が第三者に妬くのではなく自分に妬いて喜ぶのは、難しい。
 キセキと黒子が赤司を恨んでいるわけないとか、自分だけでなく赤司だって彼らを救っていたのだとか、言うことはたくさんある。ひどい勘違いをしてこの一年間絶望していた赤司に、光を届かせることはできる。


「……俺のこと好きだっていうの、嘘じゃねえよな?」


 だが火神は、ずっと、ずっと、知りたかったことを優先した。赤司が絶望した時間と同じだけ悩んでいた自分を優先した。
 弾かれたように赤司の顔が上がる。涙は流れていないが、瞳をきらきらと光らせている。


「嘘じゃない! ……君のこと、好きだよ。だからあの時頷いたんだ」
「じゃあ冷たい態度ってお前にとっちゃ普通なのか?」


 目が逸らされた。先程赤司を問い詰めた時に見せた眉を潜めた表情に、気まずさが乗せられている。


「……君の存在を認知すると、君が彼らに好かれていることを思い出して腹が立ってくるんだ」
「……じゃあ……八つ当たり?」
「…………そうなる」


 訊いた時ははち切れる寸前の期待が、答えが返ってきた時は脱力するくらいの安堵と胸をチクリと刺す拍子抜けがあった。悩みを全部、溜め息にして外へ出す。決まり悪そうに固まっている体に腕を回した。一瞬で固まられた。


「あー、もー……そんな理由かよ」
「僕にとっては立派なものだ」


 やっと嫉妬と恋情を割りきったのだろう。初めて聞いた、棘のない口調と声音だ。話してみれば案外あっさりと決着はついたようだ。
 赤司が大人しいのをいいことに、微動だにしない体をぎゅうぎゅう抱きしめる。やっと恋人同士に慣れた気分だ。
 火神が心の中で愛を叫んでいると、されるがままに抱きしめられていた赤司が、無言で体を少し離す。


「……君には悪いことをしたね。お詫びに一つ、君の好きなことをしてあげよう」
「へっ?」
「なにがいい?」


 見上げられる。笑顔だった。早くしないと赤司の気が変わってしまう気がして、火神は慌てて答える。まず浮かんだ第一候補を捨て、第二候補を口にする。


「き、キスとか」
「なんだ、キスでいいの? てっきりセックスとか言うかと思ったのに」


 セックスでも構わない口ぶりだった。赤司は無邪気な顔をしているが、火神はヘタレと言われた気分になってムッとする。もちろん被害妄想だ。
 閉じられた唇にかぶりつく。唇は春だからか、WCの時の乾燥はなかった。



* * *



「んん、っぁ、あ」
「もっと声出せよ」


 首を振って拒否され、火神は手で作る輪を小さくした。赤司の足がびくりと跳ねる。
 初めてで乳首はあまり感じないようだから、火神は性器を弄っている。性器以外の箇所は後々感じるようにさせればいい。


「んぅっ、……ぁ、ひっ! か、がみ、はげしっ……」
「普通だろ。お前が慣れてないだけで」
「ひゃぁ、っん――ぃ、ぁあっ、で、る…………ぁ〜〜〜〜っ!」


 びゅるるっ、と勢いよく精液が吹き出す。赤司は目元を赤くして息を整えている。
 火神は赤司の足を大きく開かせ、伝う精液を指で掬い、固く閉じた後孔に触れる。


「ぁ、は……っぁう、ん、ん」
「苦しいか?」
「へい、き……いいよ、っん、すすんで……ひぁ、あっ」


 お言葉に甘えて人差し指を沈める。苦しそうな赤司には悪いが、歪められた顔が色っぽい。男でも気持ちよくなれるという場所を探そうと指を動かす。


「ふ、んぅ――っひ、う……は」
「辛くても気持ちよくなっても言えよ。分かんねえから」
「やっ、だ、ぁ……そんなの、いわな――ぁあああぁあっ!?」
「っうお?」
「ひ、っぃあぁっ! やっ……」


 いきなり赤司が声を大きくした。締めつけも強くなる。びっくりして同じ場所で指を曲げると、また大きな反応が返ってきた。ここだと確信し、そこを攻め続ける。


「ぁああっひあ……っ〜〜〜〜! や、めっへんに、っぁあっ、へんになる……っ」
「確かにいつもとちげえな。……すげえ、興奮する」
「っ……っの、ばか、がみが――ひっ、増やすな、っやめ、おなかいっぱ、ぅあっ」


 どう考えても一本では解しきれないので中指も差し込む。人差し指と中指を足して二倍にしても、火神の性器には及ばない。なのにもうこんなになっているなんて、赤司は大丈夫だろうか。


「ぁうっ、ぅ、ひい……んっ! そ、こつま、んじゃ――あ、ぁあっひ」
「でもココ弄ると穴緩んでる気がすんだよなー」
「そ、んなこと……ぁ、っ……ゆびは、もっ、いれな……ひぃう!」
「――……ならもう、いいか?」


 何をとは言わず、そして答えを聞かず、火神は窮屈にしていた自身をズボンと下着から取り出す。最後に一度かき混ぜてから三本の指を抜く。自身を小さく開口するソコに押し当て、少しだけ腰を進めた。


「あ゛ぁ゛、っい――ひ、ぎ」
「……っ」


 今まで見た誰のどんな表情より、赤司は苦しげだ。興奮と赤司への心配に動かされて、悲鳴じみた喘ぎを叫ぶ口にキスをする。この動きで腰をまた進めてしまったらしい。感じる締めつけが強まった。


「ぁ、む――っんん、は、あっぁ」


 赤司が呼吸しやすいよう、たまに微かに隙間を作りながら、舌を絡める。あと少しだから、と言えない代わりに胸で呟く。
 だましだまし腰を前進させ、ついに全てが収まった。唇を離す。


「……入った、ぞ」
「はぁ、……ん、ほん、とう、だね」
「……っ、……」
「……うごきたいなら、いいよ――っっ、ひ、ぃああっ、あ、ひ」


 指二本で腹いっぱいになっていたのはどこのドイツだ――なんてくだらない言葉は胸にも浮かなかった。我慢を赤司の言葉で解いて腰を動かす。シーツを掴んでいた手を首に回させる。


「んっぁっ、ひぁあっ! ぁひ、ぃ……い、く、っも、あぁぁああっ」
「っあ、ぐ……っ」


 達した赤司につられて火神も達する。もう少し赤司のナカを堪能したかったのだが。残念だ。


「いや、だったらもっかいヤりゃいいのか」
「ぁ……はあ、何を言って――ひ!? 何で大きく……っ」
「もっかい」
「え、嘘、立てなくなる……っひ、ぁ、あっ」


 膨らんだ自身で赤司を行き来する。何でもしていいと言ったから赤司は逆らえないようだ。それをいいことに、火神は満足するまで赤司を味わった。



* * *



「――――ええ、はい。分かりました。――いいえ! 赤司くんは悪くありませんよ! 今日は一日火神くんの家に? ――……ほう、火神くんもいる、と」


 ひたすらに謝ってくる赤司を宥め、聞くことを聞いて通話を切る。立てないから外に出られない、と泣きそうな声で悲しげに言った赤司にこちらが悲しくなる。
 黒子は、目の前で状況説明を待っている四人に笑う。


「赤司くんは立てなくて火神くんの家にいます。バ火神もそこに。殴り込みに行きましょう」


 意味を飲み込むのに数秒。その後、彼らも火神への怒りを爆発させた。





END.









* * *
かなり遅くなってしまいました、申し訳ありません……! 最近火赤にやけにハマりまして、しかし見てばかりだったからかあんまり書けなくて(言い訳)。
嫉妬になってますかね、というか火神苦労人ですね。。キセキ厨赤司の嫉妬と赤司厨キセキの嫉妬に悩まされますよコレ。
それでは、リクエストありがとうございました!

 
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