短編2
□小ネタ
1ページ/10ページ
「僕に逆らう奴は親でも殺す」
言い切って断髪した赤司を前に、集まった一同は黙りこんだ。
紫原が俯いて震えている。怖がっているのだろうか。元チームメイトが人を斬りつけたのだから無理もない。
斬りつけられた当人であるが、慰めようと声をかけようと一歩踏み出した時、紫原が顔を上げた。火神はその表情に息を飲む。
でろっでろに甘い、ぐだぐだに溶けた満面の笑顔。目尻がこれ以上ないくらい下がっていて、唇の端がこれ以上ないくらい上がっている。
「ああぁぁかちいいぃぃぃいいんっ」
その巨体からは想像できないくらいの速さで赤司に突進する紫原。激突してしまいそうな勢いだ。
しかし、紫原は己の体が洛山のジャージに触れる前に立ち止まり、赤司を抱き上げた。お姫様抱っこ。そのままその場でぐるぐる回る。
「赤ちいぃぃんっ、会いだがっだああぁっ」
「僕もだよ敦。…下ろせ」
「はーいっ」
言われた通りに赤司の足を地につけた紫原は、今度は抱きついている。火神はただただ呆然としていた。さっきまでの赤司のイメージは大分変わっていた。
「赤ちん赤ちんっ」
「はいはい。離せ敦」
「えぇーやだぁー」
「まったく…仕方ないな敦は」
「へへー」
鋏を突きつけてきた時とは180度違う顔で紫原の腕を撫でる赤司。
「逆らう奴は親でも殺すんじゃなかったのかよ…」
「赤司君はボクら……特に紫原君には甘いですから」
思わず呟いていた独り言に答えてくれたのは、黒子だった。存在を忘れていた。黒子に限らず、赤司と紫原以外の存在を忘れていた。
「紫原より親の方が下なのかよ」
「赤司君の中で親御さんの存在は小さいですからね。湯豆腐より下です」
「嘘だろ!?」
「本当です。湯豆腐が逆らっても、赤司君は湯豆腐を殺したりしません」
「当たり前だろ湯豆腐生きてねえんだから!」
「赤司君の中では、紫原君≧紫原君以外のキセキ>バスケ=湯豆腐>>∞>>その他>両親、ですね」
「酷すぎるなそれ!!」
「ああ、でも……」
黒子が、哀れみをいっぱいに込めた笑みを顔に浮かべた。
「攻撃された火神君は、親御さん以下ですね」
「…………」
久しぶりに、胸にグサリときた瞬間だった。
(拍手御礼文1)