短編2

□小ネタ
8ページ/10ページ




(長男→征十郎 次男→征 長女→征羅 次女→征華)





 帝光中学バスケットボール部は強豪として有名である。恐らくだが、バスケ界に興味がある者でその存在を知らない者はいない。
 それくらいに有名な帝光バスケ部は、最近別のことでも目だっていた。

 ひとつは、キセキの世代と呼ばれる集団。十年に一人の天才が偶然か必然か、同じ時代に同じ場所へ集まったのである。
 こちらはまあ、バスケに関係があるから「別のことで」ではないかもしれない。

 もうひとつは、キセキの一角−−赤い名字をもつ彼らと、その妹たちのことだった。



* * *



「征華、あれとって」
「はい。どうぞ、虹村さん」
「……腹立たしいことこのうえない」


 虹村と征華−−いや、征華からタオルを受けとる虹村を呪殺しそうな目で睨んでいる征羅に、征十郎は首を傾げた。何の変哲もない、部員とマネージャーのやり取りだ。
 何が不満なのか問うと、征十郎は鈍いとオッドアイに睨みあげられた。しかし虹村が浴びていたものと違い、子どもが拗ねるような可愛らしいものだ。


「『あれとって』『どうぞ』だよ? 以心伝心しているじゃないか、夫婦みたいじゃないか!」
「はは、征華は虹村さんが大好きだからなあ。よく見ているから 、分かるんじゃないか?」
「だから気に食わないんだ。僕の可愛い妹に……」


 征羅は綺麗な爪を噛んで虹村睨みを再開する。征十郎は征羅の手をやんわり握って下ろした。
 他の部員の世話をしつつ、合間に虹村に話しかける征華−−ではなく、征華に話しかけられる虹村に注がれる憎々しげな目。それは征羅のものの他にもうひとつあった。視線の主は征羅と同じ配色の目をしている。虹村にはにかむ征華の両肩を後ろから掴んで自分に引き寄せた。


「征……グッジョブ」


 ドリンクを配りながら征羅がほくそ笑んだ。征華も征羅も、よくまあ複数のことを同時にこなすものだ。自分や征だって余裕でこなせるが二人の方が上手い。男女の差だとどこかの本で読んだ。


「征羅も征も……馬に蹴られるぞ?」
「僕らなら大丈夫さ」
「確かに……緑間が征みたいなことをしたら……うん、蹴られるな」
「……どうしてそこで真太郎が出てくるの」


 半目の征羅が見上げてくる。体育館の端っこで緑間がくしゃみをした。噂をしたわけではないのだが。
 どうしてと言われても。ふと浮かんだとしか答えようがなく、征十郎は実際そう答えた。征羅のよく見える眉間にシワが寄ったのでのばす。


「可愛い顔にシワが残るよ」
「ふふっ、征十郎だって可愛い」
「嬉しくないな……」
「とにかくだね、征十郎は真太郎と仲がいい」
「友人だからね」
「……それだけ?」


 それ以外に何があるというのだろう。親友、だろうか。しかしそう言えるほど緑間と仲がいいかというと、自信がない。親友とは、どれくらい仲がいい関係なのだろう。


「うちの可愛い征華と話さないでください」
「いや何でだよ……つかホント、お前と征羅の敬語は敬語に聞こえねえな」
「敬ってませんからね」
「っせ、征!」
「大丈夫だ征華。害虫はお兄ちゃんが駆除してあげるから」


 向こうから聞こえてきた会話に、征十郎は眉間を揉んだ。そろそろ止めに行かないと、兄が片恋相手に突っかかる事実に怒るではなく困っている征華が可哀想だ。
 しかし征十郎が動く前に、征華ごと征十郎を、紫原が後ろから抱きこんだ。


「征ちーん俺もかまってー」
「紫原、見てるだけであちいから離れろ」
「紫原……お菓子が切れたのか?」
「敦、暑い」
「まだ十本ストックあるから平気〜。離れなきゃダメ? 征ちん」


 純真無垢、といった風に紫原が首を傾ける。征はそんな紫原に数秒目をやり、嘆息した。我が弟は紫原には甘い。征羅も「甘いんだから……」と腕を組んだ。しかし自分達四つ子は総じて紫原に甘いのである。
 紫原のスキンシップは幼稚園児のそれだ。ゆえに征十郎のセンサーは鳴らない。
 どちらかといえば、黛という、今は京都にいる二つ上の男にセンサーは反応していた。征はやけに彼を気に入っている。相手の方も、面倒見がいいと言うとお世辞になるような性格の癖に征を本気では邪険にしない。


「征羅っちタオルー!」
「僕はタオルじゃない」
「タオルほしいっス!」
「ほら」
「わぷっ」


 こちら、というより征羅に向かって駆けてくる黄色を見る。彼はやたら征羅に構っている、気がする。黄瀬がバスケ部に入る前から知り合っているようであるし、お兄ちゃんセンサーはピコピコしっぱなしだ。
 征羅が投げたタオルを顔で受け取った黄瀬は「ひどいっスよぉー!」と情けない声を上げた。


「あれくらいキャッチできないなんて……涼太、パス練でもするかい?」
「えっ、征羅っちと!?」
「パス関係はテツヤの方がいいだろう」


 黄瀬が落ち込んでいる。その理由までは察することはできないから、征十郎が思う理由である可能性もある。
 そろそろ、休憩が終わる時間だ。征十郎は体育館の真ん中へ歩きだす。

 虹村も、黛も、黄瀬も。嫌いではない。むしろ好きだ。だがそれとこれとは別。


「邪魔はしないけれど……まだ認められないな」
「何がなのだよ?」


 いつの間にやら近くにいた緑間が聞いてた。反応が来たことに驚きながら、征十郎は何でもない、と穏やかに笑う。

 練習の再開を告げる笛が、体育館に響き渡った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ