短編
□二人じゃなくても一緒なら
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学校まで迎えに行って、一緒に帰る。
昨日までちょっとずつダラダラとやって来た掃除の仕上げを、手伝ってもらう。
二人でこたつに入って(向かい合うか隣に座るか、いまだに決められない)みかん食べながら駄弁る。
夕飯…オレも食器並べるくらいの手伝いはするけど、調理はやってもらって。
またまた二人でこたつに入って、紅白とか見て喋ったり。
そして年が明けたら、「明けましておめでとうございます」。
……紅白の途中からベッドインして、年末エッチからの姫始めしてもいいけど。
とにかくこれが、オレの立てた大晦日プラン。
家族みんな、どこかしらに泊まりに行って家にいない。それを活かして立てた、好きで好きで堪らないあの人とイチャコラするための計画。
だがしかし。
「伊月先輩はもう帰られました」
驚かせたくて、迎えに行くのを内緒にしていたことが仇となった。
あの人――伊月さんは、帰ってしまった、らしい。
「伊月さん、いっつも残って自主練してるじゃん! 何で今日に限って!!」
「ボクらが帰らせましたから」
「なんで!?」
「緑間君からキミの計画は聞かせてもらいました」
「み、緑間ああぁぁああいつううぅっ!」
ウキウキ年末プランを誰かに自慢したくて、身近な相棒に言ったのが間違いだった。思えばあいつ、るんるんと帰り支度をするオレを見ながらメールしてたな……黒子に打ってたのか!
がっくりと膝と手をコンクリにつくオレを見下ろし、「ざまぁです」と言ってきた黒子に言い返す気力もない。
「いくらツンデレでも許せないツンだぞ緑間……しばらく真ちゃんって呼んでやんないぞ…」
「むしろ喜ぶと思います」
「なんで!?」
「そんなことより。緑間君から伝言です。『オレの家に来るのだよ』」
…フツーに、オレにメールなり電話なりすればよくね?
* * *
「手伝え」
今日のラッキーアイテムであるリボン付きカチューシャを頭に付けた真ちゃんは、オレを見るなりそう言った。
「いらっしゃい」の言葉が欲しかったわけじゃないけど、それにしたって。
「人の恋路を邪魔しといてその言いぐさはどうなのかな真ちゃん!?」
「今年のラッキーアイテム365個を、今日中に片付けなければいけないのだ。オマエの恋路などどうでもいい。大体、人事を尽くしていないからこうなるのだよ」
「尽くしてるよ! 伊月さんのことでは尽くしてるよ!」
というか、真ちゃんが大人しくしてれば「こう」はならなかったっての!
こうなれば仕方ない。さっさとラッキーアイテム365個を片して、伊月さん家に行こう。そんでオレの家に連れてって、二人きりで年越しパーティー!
ラッキーアイテムで散らかっている真ちゃんの部屋。足の踏み場はほとんどない。酷い散らかりっぷりだ。だが見たところ、ラッキーアイテムさえ終わらせれば部屋は綺麗になる。散らかりの原因はラッキーアイテムなんだ。
まず、足元に転がるアメーバのストラップを手に取る。
「真ちゃーん、このアメーバストラップはどこに……」
「自分で考えるのだよ」
「…………」
今日中に終わる気がしない。
* * *
「はああぁぁ……」
結局。
片付けは夜の八時に終わった。この時間じゃあ、伊月さんは夕飯を食べ終えてしまっているだろう。プランは半分以上おじゃんだ。
今から迎えに行っても迷惑なだけだろう。今頃は家族団欒してるだろうし。…ていうかよく考えたら、伊月さんと二人きりで年越しって、伊月家に伊月さん抜きで年越しさせるってことだ。それは身勝手だろ。
両親は旅行、妹は友達ん家に泊まり。
するとオレは、一人で年越し。なんて寂しい。傷心だぜベイベーあはははは…………つまんね。
仕方ない。この前こっそり写メった伊月さんの寝顔と一緒に新年を迎えよう。
なんとなくその写メを見たくなって、コートのポケットからケータイを出す。
「やっぱかわええー…伊月さんマジ天使」
小指一本なら突っ込める程度に開いた唇とか。朝日に照らされた眩しい肌とか。ほっぺに影を落とす長い睫毛とか。
やっぱりかわいい伊月さん……と思ってたら、伊月さんの寝顔が消えた。代わりに着信を教える画面が出てくる。発信者の名前を見た途端、オレは通話ボタンを叩いた。
『オレん家来ない?』
繋がるなり、その人はそう言った。予想外の言葉だったから、オレの言葉は詰まった。
沈黙をどう受け取ったんだろう。伊月さんは少し早口に言葉を送ってくる。
『緑間が、言ってた。オマエ今日、家に一人なんだって? 団欒する家族がいないなら、うちに、泊まんない?』
「と……泊まるっす! 泊まらせていただきます!」
家に向けていた足の方向を変えて、目指すは伊月家。何度も泊まったことがあるから、必要な物は全部あちらに置いてある。ちなみに、逆もまた然り。
オレって世界一幸せ者。真ちゃんありがとう! 伊月家の団欒を壊さず伊月さんと年を越せるなんて。オレの計画より何倍も素敵。
『今夕飯作ってるんだけど、あとどれくらいで着きそう?』
「えー……と、二、三十分くらい、っすかね。…って、まだ食べてなかったんすか」
『うん。うち、大晦日の夕飯は遅いんだ』
歩きながら伊月さんと会話。伊月さんは隣にいないけど、声がいつもより近くてにやける。
他愛もない話を続けていると、見慣れた日本家屋が視界に入った。歩くテンポが速くなる。
「伊月さん、料理なに作ったんすか?」
『んー? 内緒。当ててみて』
「一当て一ちゅーでよろしくっす――着きましたよー!」
しないから、とか言う声に被せて言い、チャイムを鳴らす。来年はもっと愛します、と電話越しに伝える。
しばらくして出てきた伊月さんの顔は、真っ赤だった。
END.
(嘘だ…四つ全部、当てた…?)
(四回ちゅーっすね! 四発四中四回ちゅー!)
(く……上手い……!)
* * *
初黒バス小説は、高月となりました。鳥の目コンビ大好きです。
しかし伊月さんではなく高尾がだじゃれを…あれです、夫婦やカップルは癖が似てくるって言う。
2013年、よい年になりますように!