短編
□小ずるい息抜き
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ある日の休み時間。
伊月に借りていたノートを返して自分のクラスに戻ったら、友達三人が何やら騒いでいた。一人が持っている何かを三人で見ているらしかった。
「なに見てんだ?」
オレも見てみようと屈むが、三人の頭が邪魔して見えない。三人共俺に気付いて顔をあげた。が、やはり頭が邪魔なのに変わりはない。
「何か」を持っている友達がそれを掲げて見せてくれた。「何か」はケータイだった。そこに映る画像を見て、思わず眉を寄せてしまう。
「何撮ってんだお前…」
映っていたのは。
西日が窓から差し込んでいる、夕暮れの教室。
その西日に顔の左半分を照らされて眠る、伊月。椅子に座って、机に伏せずに姿勢よく。半開きの唇から、ちろりと前歯が覗いていた。真正面から撮ったアングルだ。
いつもの伊月よりあどけない。一緒に寝た時に見る寝顔と同じ。
「委員会で待たせちゃった時に撮ったんだ」
どこか自慢げに笑う友達はそういえば風紀委員で、伊月ともそこそこ仲がいい。ついでにいうと、伊月と他二人は面識がある程度の仲だ。
随分と無防備な姿を晒してくれた伊月と、写メを撮った友達、それを楽しそうに見ている二人にイラッと来る。
「盗撮よくないんじゃねーの? しかも他の奴に見せて」
「悪用してるんでも寝顔見てバカにしてるんでもないし、いいだろ」
さりげなくたしなめてみたら、あっさり返された。まったく正論じゃない意見だが、これ以上突っ込むと変に思われる。
三人はまたまた盛り上がっていく。
「こうしてみると伊月ってかわいーよな」
「バカお前男相手に何言ってんだよ。ホモか?」
「まー気持ちは分かる。なんかムラッとクるもんな、この写真」
「ってお前もか。……まー気持ちは分かる」
「「ってお前もか」」
楽しそうに話しているが、ふざけんなよテメエら。何が「かわいーよな」だ。何が「ムラッとクる」だ。テメエらが言うな。つか気付くのおせえよ。殺すぞ。
……と色々思ったが、今後の人間関係の為に心中を表に出すのはやめておく。ここでキレたら伊月との仲を疑われる。
「ふーん、ちょっとよく見せて」と、興味を持った振り(ハナから興味はあったが)をしてケータイを受けとる。
「アイツこんな顔して寝んのか」
なんて白々しく言って、ケータイを操作。画像を新規メールに添付して、送信先アドレスにオレのアドレスを選ぶ。送信。
ズボンのポケットに入れたケータイが震えるのを感じつつ、送信ボックスの、最新の送信メールを削除。
オレの手元に注意を払わずいまだに伊月で盛り上がる三人にイラつきながら、寝顔画像を削除。そして「あっ」と、しまったと言いたげに声をあげてみせる。
「どした?」
「ワリ、画像消しちまった」
「ええぇ!? 何してんだお前!!」
「いやあ、ズームとかしてたらうっかり。本当ゴメン」
ザマアミロと思っているが、一応謝っておく。人のケータイの画像を勝手に消すのは悪いことだし。
軽いノリで謝ると、三人共文句を言ったが許してくれているようだった。
「あ、いた、ひゅーが」
驚いて、さすがに肩が跳ねた。振り返ると、定規を持った伊月が。全然気付かなかった。
三人を横目に見てみると、少し表情が固まっていた。さすがに思うところがあるらしい……なに顔赤くしてんだゴラ。
「ノートに定規挟まってたぞ。また栞代わりにしてたのか?」
「ああ……伊月、ちょっと来い」
「え? もうすぐ休み時間終わるよ」
「いいから来い」
「クラッチタイム…?」
ああそうだな、クラッチタイムだ。無防備になるなって言いつけないと。
それに、キスの一つはしないと収まりそうにない。
END.
* * *
モブを入れるのが好きなのかもしれない、とこれを書いていて思いました。日月前提モブ月ぷまいです。日月に限らず、前提モブ×受けが好き。
伊月先輩あんまり出せなかったのが悲しい。