短編
□夭逝する留め具
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「……なるほど。赤司君のためなら仕方ありません。協力しましょう」
「頼んだのはオレだぞ…」
「ですから『赤司君のためなら』と言ったでしょう。『青峰君の頼みなら』とは言っていません」
「…………」
中三の頃は自分のことでいっぱいいっぱいだったから分からないけど、少なくとも高一のWCの時からは確実に、赤司君は悩んでいた。何を一人で抱えているのか、青峰君にも相談できないのか、分からなくて心配で。
ふと赤司君の陰りのある顔を思い出す日常のある日、青峰君に呼び出された。赤司君が妙にこっそりした感じに家を出たから一緒に後をつけてほしい、と。確かにボクのミスディレクションがないと、青峰君は数分で赤司君に見つかってしまうだろう。
そんなわけで、事情を聞きつつ赤司君をつける。着いたのはマジバ。赤司君は中に入って、一直線にある場所へ向かった。向かった先にいる人を見て目を見開いてしまう。どうしてここにいるんです、黄瀬君。
驚きに固まる青峰君を引っ張ってマジバに入る。赤司君が座る席の後ろに青峰君、その真ん前にボクが座った。
「まさか浮気か…?」
「馬鹿なことを言わないでください」
ボクはシェイクを、青峰君はハンバーガーを買って、二人の会話に耳をそばだてる。盗み聞きなんてしたくないけど、致し方ない。赤司君が黄瀬君だけと会うなんて非常事態だ。
「大輝がセックスしてくれないんだ」
「ぶっはあっ、ぐっ」
黄瀬君と青峰君が同時に吹き出す。「汚い」同感です赤司君。
「赤司君が黄瀬君に相談するほどって……性欲大魔神の名が廃れますよ」
「…いつ誰が性欲大魔神になったよ」
「中一の頃に、青峰君が。大魔神の『じん』は神様の『神』です。重要ポイントですよ」
「…………」
青峰君をからかうのはやめて、喧嘩でもしたのかと聞こうとして、やめる。理由が分かっているなら、赤司君は黄瀬君に相談したりはしない。
青峰君がバーガーを二口で食べる。黒い肌が赤くなってる気がしますが……錯覚ですよね? 青峰君の赤面とか見たくないです。
黄瀬君が、赤司君が上だなんて馬鹿なことを聞いているのは聞き流す。それに対する赤司君の返答に頭を抱える青峰君は、面白かった。
「付き合ってもうすぐ三年なのに、何で押し倒してこないんだろう…」
赤司君の爆弾投下に、また黄瀬君と青峰君が吹いた。「汚い」本当に意見が合いますね赤司君。
取り敢えず青峰君に非難の視線を投げる。何やってるんですかこのガングロ。地球を槍で穴だらけにしたいんですか。
「不能なんですか?」
「ばっ、ちげーよ! んなわけあるか!」
またもバーガーを二口で胃に送る青峰君。赤黒くなった顔については突っ込むまい。
赤司君がぽつりぽつりと、青峰君をその気にさせるためにとった行動を暴露していく。ボクはその健気さに涙が出そうになった。何をカマトトぶってんですかこのガングロは。カマトトガングロはテーブルに撃沈している。
「オレがどんだけ我慢したと……トイレダッシュしたっての」
「それはお疲れ様です。しかしどうして、そこまでされてるのに応えてあげないんですか?」
「…絶対メチャクチャにヤる」
まさか、もう少し性欲が無くなる歳になるまで我慢する気ですかこの人。絶対に反動でメチャクチャやらかしますよ。
黄瀬君のバレンタイン発言で、赤司君が黄瀬君にチョコを渡した。一番乗りを逃した青峰君がテーブルに頭をぶつける。残念でしたね。でも一番乗りを逃したのはボクも同じです。…ボクにもくれるんですね赤司君。ボクは君が東京に来ていると知らなかったのでチョコを用意していないのですが…代わりに青峰君をけしかけます。
バレンタインにちなんだ提案に「やめてくれ」と青峰君が呟いた。抑えているところにチョコレートプレイを誘われたら赤司君を復上死させかねませんもんね。
不安だ、と赤司君は言った。バーガーを咀嚼する青峰君の動きが止まる。ボクらからは赤司君の顔は見えないけど、何だろう、泣きそうな声に聞こえた。初めて聞く、赤司君の弱音。溶かされたオブラートのように頼りない声音。
赤司君は早足にマジバを出ていった。残された黄瀬君が、挑発を青峰君に投げつける。ボクのミスディレクションはもうほとんど切れているから、バレていても驚きはしない……赤司君は、最後まで気付かなかったようだけど。
青峰君が腰を上げる。ボクにしか聞こえないような声量でお礼を言ってくる。らしくないことを言ってないで、早く赤司君のところへ行きなさい。
ボクらの間にいた二人がいなくなって、今日初めて黄瀬君の顔を正面から見た。上手く赤司君の相談に乗ったご褒美に微笑んでやる。「くううぅぅろこおおっちいいぃ!」マジバから引きずり出してイグナイトをかましてあげた。
END.
* * *
本当は黒黄黒…というか黒黄でもいいのですが。黒黄派です。