短編

□氷の鎖
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 青峰宅に戻って、無人のキッチンで湯煎の用意をした。ぼこぼこ泡を吹く湯と完成済みのチョコを交互に見て決心を固める。これで駄目だったら。きっと大輝は僕を可哀想に思って傍にいてくれたのだと、納得しよう。
 袋から手のひらサイズのチョコを出す。鍋にかざして指から力を抜き、――後ろから伸びた手に指ごと口に入れられた。ねっとりとざらりの中間の感触に襲われる。


「――ん、うめえ」

「…大、輝」


 振り向く前に、鍋の火を消されて、抱え上げられた。歩き出す大輝の肩に担がれる。腹が肩に当たって少し苦しい。上体を起こして顔を見ようとするけれど、目尻までしか見えない。腰と腿に当てられた手に力がこもった。


「大輝、説明――、っ」


 腿に当てられていた手で頭を下に押さえられる。手はスライドして肩甲骨辺りを押さえ、僕が頭を上げるのを邪魔した。直後に気付いたけど、ここは大輝の部屋の前だ。ドア枠に僕の頭がぶつからないようにしてくれたらしい。景色が見馴れた部屋に変わる。
「よっ」と軽い声を上げた大輝に、ベッドに落とされる。視界が激しく揺れて頭痛がした。スプリングが効いているとはいえ、衝撃は吸収しきれなかった。
 起き上がろうと動く前に落ちる影。大輝が、端から見れば僕を押し倒しているような図で、僕の真上にいた。頬を触ってくる。撫でるでもなく、触れてきた。
 いいか? と訊いてくる声に、何を、と答えるのは野暮だろう。

 一緒に寝ている時、キスで起こした時、バスタオル一枚で歩き回った時――他にも色んな時に見かけた、ギラギラの青い目が見つめてくる。ああ、これ、欲情で餓えた目だったのか。悩んで損した。
 僕はただ、そんな腹ぺこの目の端に口付けて、了承を伝えた。



* * *



 目尻にキスしてきた赤司の頭を、肩を押すことでベッドにつけた。第一ボタンだけ開いている灰色のワイシャツの、糊が効いた襟の中の首筋に噛みつきながら、残りのボタンを外していく。噛みついた時に無言で跳ねた動作、それだけで反応しそうになる。
 シャツをはだける前に、シャツの上から乳首を探す。胸に指を滑らせると引っ掛かった。潰してみると、ふあ、と声が聞こえた。

「なあ、乳首感じるか?」

「…っん、あ…し、知らない」

「ふーん」

 絶対嘘だ。布越しにも分かるくらいコリコリしてる。右側のを擦って左側のを吸ってやる。

「ひっ、っ! だ、大輝、それだめ…っ」

「知ってっか? 赤司。その顔で言う時の『だめ』は『イイ』って意味なんだぜ」

「は? ぁあっ、う……どや顔する、な! ひぁんっ」

 右の乳首をじかに摘まみながら顔を離す。色が濃くなった、左胸の真ん中辺り。なんだろう卑猥だ。
 初めてだからか、AVの女より啼き声は控えめ。けど興奮した。他ならない赤司の声だ。
 赤司のズボンの、布を押し上げる突っ張っりの上にある、無駄な装飾のないベルトを外す。下着ごと脱がせる。完勃ちに限りなく近いところまで勃っている、先走りに濡れた赤司の性器。思わず凝視したら、足を閉じられて隠された。強引に開いて幹を握る。上下に扱くと、途端に上がる声。

「ぁ、あっ! んふ、ぁ…っ、だいき、も、いいから、挿れて、」

「あ? まだはえーだろ」

「や、ぁ…、これ以上、気持ちよくするな」

「…挿れたらもっと気持ちよくなると思いますがね赤司さん」

「っるさい! いいから早く、だいきの、っ」

 まだケツの穴柔らかくしてねーんだけど。どうしよう。下半身が苦しい。
 一回イかせてやりたかったけど止めだ。一刻も早く赤司に挿れたい。先走りで濡らした指を二本、固く閉じた後孔に突っ込む。苦しそうにしてるから、やっぱ一本にして、もう一本は入り口を解すのに使った。危ない。極力痛い思いはさせないつもりだったのに。
 赤司の顔を伺うと、快楽より苦痛――というか違和感の強い表情をしていた。若干萎えている性器を扱いて気を紛らわさせる。

「ん、んぐ、ぅ、…っ。ふ、っあああ!?」

「お、ここか」

「ぃ、んやああぁぁッ、ん、い、いや、やだそこ…っ」

 見つけたしこりをグリグリ押す。赤司の腰がびくんびくん跳ねた。蕩けきった赤と橙の瞳からは透明な涙が流れている。赤と橙を帯びた透明だったらいいのに。
 しこりを引っ掻きながら指を追加する。バラバラとナカで動かすと、目尻に溜まった涙がまた一筋、こめかみを流れ落ちた。
 指をもう一本増やしてナカを掻き回して。そろそろいいか、とベルトに手を伸ばそうとした時だった。


「大輝、ッ、早くきて…っ」

「あああああもう煽んな!」


 言われなくても行ってやるつもりだ。にしても、いちいち言葉がオレを煽ってくる。
 ベルトを乱暴に抜いて、ズボンを下着と一緒に脱ぐ。「大きいな…」と照れつつ若干構えつつ言う赤司。だから何でそういうことを言うんだコイツは。
 赤司の手がシーツを握ったから、それを掴んでオレの背中に回させる。


「こっちだろ」

「…ん」


 入り口に性器を当てると、背中の指に力がこもった。見ると、体も少し強張っている。赤司でも怯え、というか緊張、というか、とにかくそんな感じの感覚を覚えるらしい。一気に挿れるのとゆっくり挿れるのとどっちがいいか訊くと、一気、と返ってきた。


「挿れるからな。今更イヤとか言うなよ」

「言うわけないだろう。僕を誰だと思っている」

「黄瀬に相談しちまうくらいオレのことが大好きな赤司様だな」

「っな、」

「そんで、オレの大好きな赤司だよ」

「えっ、……あ゛ああぁぁッッ」


 柄にない台詞を吐いてから、不意打ちで赤司の中に押し入る。本人の希望通り一気に挿れたら、背中に爪を立てられた。きちんと切り揃えてあるからか、そこまで痛くはない。オレの腰を挟む足がふるふる震えている。
 赤司が馴れるまで待とうと思っていたけど、なんか無理だ。早く、コイツがもっと乱れるところが見たい。
 腰を動かしてさっき発見したしこりを突く。

「や、っあ、あ、あ! ぃ、あ、」

「っ、きっつ…」

 締めてくる熱に持ってかれそうになる。耐えて動きを早めると、下から聞こえる声が高くなっていった。しこりに向かって強く突くと、一段と高い声を上げて、強く締めつけて、赤司はイった。オレもつられるように欲を吐き出す。
 抜いて、息を整える赤司の隣に寝転がる。赤司は首だけを回してオレを見た。色違いの両目が不思議そうに細まっている。

「……もう、いいの?」

「おう――初めてだから手加減してやんよ」

「それは嬉しいな」

 滅多に見ない赤司のへにゃりとした笑顔に、マジバでの頼りない声を思い出した。あの時のコイツはどんな顔をしていたんだろう。それを見たのが黄瀬だとか、勘弁してほしい。


「…そんなに不安なら、一日に何度もヤってやるよ。十回くらいな」

「……それは勘弁してほしいな」


 顔を赤らめて困っているが知ったこっちゃない。何度でも注いで、不安を感じる暇がないくらいにしてやるから。覚悟しとけばいい。



END.








* * *
裏に行くと途端に長くなりますね。ベッドイン→前戯→挿入→絶頂を全部書くからですが。だってどれも楽しい。ただ喘ぎ声には悩みます。赤司様はおおっぴらに啼くのか、押さえつつでも喘いでしまうのか…どっちもおいしい。

 

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