短編
□気持ちも想いも込めました
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『赤司君は料理が苦手ですから、手作りはもらえないと思いますよ』
二月十四日に恋人が帰省するので会えるから、もしかしたらチョコもらえるかも――と期待に胸を膨らませる降旗にかけられたのが、黒子のこの言葉だ。
手作りチョコをもらえない物悲しさに肩を落としながら帰宅する。マフラーにコートに手袋、という防寒対策バッチリな赤司が玄関で待っていたので、肝が潰れそうなくらい驚いた。
「あ、ああ赤司君…! ごめん、待たせた」
「気にしないでいいよ。それより降旗君、」
言葉を切って、赤司は肩にかけたバッグを漁った。バッグから出てきた手には、手のひらサイズの赤い箱。あれ、これまさか。
チョコだよ、と赤司は言った。開けてみると、とてもおいしそうな生チョコが数個。食べてみると、普通においしかった。
「赤司君、料理……」
「できるに決まっているだろう。僕を誰だと思っているんだ」
その頬は赤いが、寒い中待っていたからそれは元から赤い。降旗は丁寧にお礼を言ってから赤司を家にあげる。
赤司をリビングに待たせ、お茶を用意する。赤司は防寒具を取り去ってから、温かいコップを両手で持つ。
そうして降旗は気付いた。剥き出しになった赤司の手。一本の指につき最低一枚、絆創膏。
やはり料理は苦手だったようだ。痛々しい手に胸が締め付けられ、頑張って作ってくれたことにまた、締め付けられる。
赤司の手を取って、傷だらけの指を撫でてもう一度ありがとうを伝える。赤司は笑った。
「彼氏としては、指にキスでもすべきだけど。降旗君としては、満点の行動だよ」
* * *
はい、と机にオレンジの箱が置かれた。手作り感満載の箱。可能性がないと承知していても伊月からの手作りチョコを所望したからだろうか。幻覚が見える。
しかしどれだけ凝視しても、オレンジの箱は消えない。目の前の伊月にばれないように、自分の手の甲をつねる。痛い。大体、夢と疑う時は大抵、夢じゃない。
ああきっと、中身はチョコじゃないんだろう。ならば納得がいく。「開けないの?」と不安と期待をまぜこぜにした声で聞かれ、箱を開ける。
「……え、」
入っていたのは、数個の生チョコ。手作りの、チョコレート。
伊月がチョコを――菓子を、こんなに上手く作れたなんて、そんな馬鹿な。頭が混乱したが、すぐに赤い髪の後輩が思い浮かぶ。もしかして彼に教わったのだろうか。
一粒口に運ぶ。ココアパウダーが振り撒かれたそれは、口内の熱で甘く溶けた。
「…どう?」
「すごくうまい」
「…よかった」
ほわりとした微笑みを見て決める。ホワイトデーには三倍返しだ。
ブルル、とケータイが震えた。伊月に短く断って確認する。メールだ。知らないアドレスだが、件名に「赤司です」とあったので送り主は分かった。
中身は、文字の一つもない、画像のみ添付されたもの。開いて出てきた画像に、日向は顔を真っ赤にして吹き出した。
END.
* * *
日向さんホイホイはちゃんと日向さんのところへ行きました。
何気なく初降赤です。あまり絡みませんでしたので、次は絡ませたい。