短編

□君への傾慕は永遠に尽きず
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 十六年の人生の中で、怒った数はたくさん。キレた数は一桁。そう思っていたが、違った。

 ここまで頭に血が上ったことは一度もなかった。



「僕に逆らう奴は親でも殺す」



 オレがアイツの中でも特に好きだった――今でも好きな赤い髪が、数秒でアイツから切り離され、ばさりと地面に落ちる。
 足の付け根まであった赤司の髪は今や肩にやっと届く程度。
 目の下と頭が熱くなって、赤司の背中が階段下から見えなくなるまで動けなかった。見えなくなってからやっと、火神を殴って階段を駆け上がる。散っても綺麗な赤をわし掴んで拾って走る。会場の手前で追いついた。


「赤司!」

「…大輝。桐皇はあっちに行ったよ」


 彼方を指さして妙ちきりんなことを言ってきた。そしてオレの手にある髪を見て、「ああ、届けてくれたのか。地面にあったままだと何事かと思われるものね」と、これまた妙ちきりんなことを言い、髪を奪って近くのゴミ箱に捨てた。赤司を追う間に少し収まった熱が、また込み上げる。
 会場に入ろうと背を向ける赤司の手首を乱暴に掴んで、こっちを向かせる。


「…何で切った」

「……言ったろう、鬱陶しかったんだ」


 凄まじい睨みを受けてつい、手の力を緩める。赤司がそれを見逃すはずもなく。あ、と思った時には、赤司の姿は会場の人混みに消えていた。



* * *



 終わってしまった、終わらせた、僕の恋。
 中三の時、進学先の違いで大喧嘩して、それきりだった。連絡を取ることは今日までせず。僕達の関係は自然消滅した。
 それでも僕はアイツが好きだった。終わった奴に恋を続けるという不毛を続けて悩んで苦しんで、I・Hの次の日決めた。


 僕の全てを愛したアイツが一番好いた僕の髪を、僕の思いごと、アイツの前で切ってしまおうと。


 火神は完全にとばっちりだ。次会った時は謝っておこう。
 …ただ少しおかしいな。頭は軽くなったけど、胸の内側が重い。切ったはずなのに。

 風呂上がりの髪にドライヤーをかけようか、割り当てられたホテルの部屋で悩む。すぐ乾きそうだし、自然乾燥でいい気がする。
 備え付けの電話が鳴った。


『お客様がお見えです』


 悩まずにかけておけばよかった。そうしたら、一目で濡れていると分かる今の状態よりはマシになっていただろう。
 寝巻きの浴衣に羽織を重ね、僕は部屋から出た。



* * *



 一階のロビーに行くと、“お客様”らしき人がいた。ジャージ姿だ。従業員もお客様の名前くらい言えばいいのに。“お客様”はすぐこちらに気付き、大股でやって来た。
 名前を呼ぼうとしたら頭にジャージを被せられる。

「風呂上がりかよ……一旦乾かしてこい」

「またここに戻るのも面倒だし、お前が部屋に来い。こっちだ」

 反論の声がしたけれど知ったことか。踵を返して廊下を歩き、エレベーターに乗る。僕ら以外に人はいなくて、二人きりで、ドキドキする。
 なあ、と。大輝は言う。

「ロビーに行くまでに誰かと会ったりすれ違ったりしたか?」

「いや……何でそんなことを聞くんだ?」

「別に」

 そう口では言っているものの、大輝の顔は安堵に染まっていた。雄弁な顔だ。安堵した意味は分からないけど。
 やがてエレベーターは目的の階で止まった。僕の部屋はエレベーターに一番近い部屋だ。その距離五メートル。
 部屋に入ってドライヤーをかける。大輝が「一人部屋か?」と聞くのに頷く。洛山バスケ部にいる女子はマネージャーの僕だけだから。
 髪があらかた乾いたのを確かめてドライヤーのスイッチを切る。何の用なのか改めて聞こうとしたら、抱え上げられてベッドに投げられた。驚きながらも起き上がろうとするのを、真上に来た大輝に両手を押さえられ阻止される。

「…退け」

「嘘だろ、鬱陶しかったって」

「は?」

 これ、と髪を一房摘ままれる。会場に戻って洛山と合流した時驚かれ、卒倒寸前の玲央により切り揃えられた髪は、肩に僅かに届かない長さになっている。
 大輝は、髪を切った理由が嘘だと見抜いているようだ。本当の理由を言え、と言っているのだ。よりによって大輝に言うなんて冗談じゃない。――だが、言った方が、未練たらしい未練を切れるかもしれない。

「知らないの? 女は失恋したら髪を切ったりするんだよ」

「…誰に失恋したっつーんだよ」

「言わせるのか? …お前にだよ大、っ!」

 荒々しく唇を重ねられた。一瞬で上唇と下唇を離される。口内に舌が侵入してきた。噛んでも良いのにそれをしないのは、やはり大輝をまだ好きだからか。
 息が苦しくなってきた頃、やっと解放された。糸のように伸びる唾液を大輝が舐めとる。無性に恥ずかしくなった。
 重ねられた唇に負けず劣らず荒々しい、けれどどこか苦しげな目が僕を見下ろす。


「オレは、今もお前が好きだ」

「……は?」

「まさか自然消滅とか勘違いしてねーよな?」

「だ、って…喧嘩して、それから連絡なかったし」

「……謝りにくかったんだよ。タイミング分かんなくなって」


 あの時は悪かった、とバツが悪そうに頬を撫でられた。視界がぼやけて大輝の顔が見えない。「泣くな」と目の下を指がなぞった。クリアになった視界に、大輝の不安げな目。
 僕の方こそごめんなさい。意地を張らないで謝ればよかった。そしたら、苦しむことも、大輝が気に入っているこの髪を切ることもなかったのに。
 色々と言葉は思い浮かんだのに、空気に飛び出したのは「僕もごめん」の一言だけ。
 それでも大輝の表情は晴れた。僕の上から退こうとする。そんな彼の褐色の手を掴んで、どう言おうか悩んで、結局、思ったままを口にする。


「せっかく仲直りしたんだ。触って、大輝。ここはオートロックだから、鍵ももうかかってる」

「……どうなっても知らねーぞ」


 と言いつつ、羽織を剥かれ、襟から手を入れられた。瞬間大輝が強張るが、すぐに動きを再開した。胸の膨らみを揉みながら、人差し指と親指で固くなった乳首をつまみ上げる。

「は、ぁっん、んっ…」

「なんでブラジャーつけてねーんだよ」

「和装、は、下着を付けないのが普通だ…っ」

「付けろよ危ねーな……じゃあパンツも?」

 言うが早いが手で確かめられた。さすがにパンツは履いている。
 大輝は「よし」と頷き、胸に顔を埋めてきた。途端、乳首に熱く濡れた感触が押しつけられる。いきなりの熱さに、声と体が跳ねた。腰が痺れる。


「お前、胸全っ然変わってねーな。Aのままか」

「は、ぁ、ひんっ、そこで喋る、な…! そして死ねっ――ひぁあ!?」

「お、トロトロ」


 下半身に手を伸ばされ、溢れ出す蜜を指で絡めとられて突起に塗りつけられる。グリグリ押されるとどうしようもなく体が跳ねた。
 突起を弄っていた武骨な指は、やがて後ろの割れ目をなぞり、ナカに入り込んだ。


「い、っあ…」

「きっついな…。大丈夫か?」

「ふぇ、ぅ、あん…だい、じょうぶ…っ」

「無理すんなよ。明日もあんだし」

「無理じゃないっ、…大輝、だい、きと、したいから、ぁ、…ね? おねが、きて…っ」

「っお前な……ホントにどうなっても知らねえ」


 ぐちゅり。指が円を描くように動いた。不意打ちに、僕の口からはまた声が漏れる。
 どうなっても知らないと言っておきながら、大輝の全ては僕を気にしながら動いていて、とても嬉しく、愛しい。
 二本、三本と指は増え、バラバラとナカを蠢いた。

「だいき、ぁっ…も、いい、はやく、いっしょに、あああぁぁっ」

 くぷんっ、とゴムをつけた大輝が、一気に最奥まで入ってきた。思わず締め付けると、大輝が呻く。


「おま、きつく締めすぎ…」

「は、ふ……だ、だって、嬉しくて、……っ、や、ぁ、おっきく…」

「仕方ねーだろ、今日やけに素直でかわいいし」

「ひ、んっ、素直じゃないのは、かわいくない…?」

「あー、言い方が悪かった。素直じゃない時のかわいさと違ったかわいさで新鮮。こーふんする」


 これ以上は進めない、というくらい奥まで一息に進んでいた大輝のそれ。ゆっくり入り口まで引き抜かれる。そういえば、初めてした時、痛くても一気にされる方がいい、と言ったっけ。覚えていてくれたのか。
 先端も抜かれる、という辺りまで来て、また一気に最奥を突かれる。それからは、急いたように勢いは止まらなかった。


「んっ、あ、あ、あっ! だいき、ぃっ、きもちぃ…っ! ひゃあ、ぁっ」

「ああ、オレもだ、…っ」

「は、ぁっだいき、好き、す、き……だいすき、っふああ…っ!?」

「頼むから黙れ!」


 またも質量を増した大輝に、切ないくらいの愛しさが、あたたかく胸をたゆたう。
 好きだ、と。大好きだ、と。言ったのに大輝は赤みを帯びた顔で黙れと言う。嫌だっただろうか。


「勘違いすんなよ、オレだって好きだ――っあんま締めんなって」

「ん、ふ、やっあっあ…っも、イっちゃ…っ」

「っ、オレも…」


 絶頂を迎えると同時に大輝を締め付ける。大輝も、ソレをドクリと脈打たせてゴムに精液を吐き出したようだ。
 大輝が僕から出ていこうとするから、なけなしの力を振り絞って締めつけ、阻止を試みる。
「誘ってんのか?」とニヤリとする大輝に「まさか。もう少しこうしていたいだけだよ……っつ、あ」……また大きくなった。性欲大魔神め。
 目と目が合って、どちらからともなくキスをする。甘い甘い、脳髄がジワリと痺れるキスだった。



* * *



「本当に申し訳ありませんでした。ボクの監督不届きです」

「昨日は悪かった……です」


 大輝と仲直りした翌日のこと。
 広い会場からどうやって見つけたのか、テツヤと火神が試合前に僕らの元へやって来た。そして頭を下げてきた。動揺する僕の隣で大輝は平然としていた。なんという太い神経だ。
 テツヤと火神は頭を上げ、テツヤはまっすぐ、火神はゆらゆら、僕らを見つめた。


「身体的なお灸はWCが終わってから据えます。…あああまったく赤司さんの綺麗な御髪がこんなに短く……いやセミロングも似合いますけどね? やっぱり火神君、今日も土下座二時間してください」

「い、いや、いいよテツヤ。火神は悪くない。むしろ怪我をさせて悪かった」

「何て優しいんです赤司さん…!」

 大きな体を縮こまらせる火神は憔悴していた。片頬に切り傷と痣がある。痣は一体どうしたんだろう。テツヤは、身体的な灸は据えていないと言っていたけれど。
 ひとしきり謝罪してから、二人は去っていった。そういえば髪を切ってしまったのだ、と思い出して毛先を指に巻き付けてみる。するするほどけた。
 ほどけた毛先を、ゴツゴツした指が掴まえた。


「こんくらいも似合ってるよ。オレは長い方が好きだけどな」

「ん……」

「しょぼくれた顔すんな。また伸ばせばいいだろ」

「…前の長さになるまで、何年もかかるよ」

「いいだろ別に。段々変わってくとことか見れるし」


 それは、変化を常に見て、前の長さに伸びる頃にも一緒にいるという、ことかな。
 毛先にそっと、大輝の唇が触れた。



END.









* * *
R18になると、大抵ストーリー+濡れ場になるので長くなるという。途中から浴衣要素が消えた…。
今回の赤司さんはロングヘアー。さつきちゃんより長い。しかし切って短くなる。ちなみに名前は征華。拙宅のにょた司は赤司征華さんです。
リクエストありがとうございました!


 

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