短編

□あとは自覚をさせるだけ
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 また最初は緑間に教わるんだろうか――憂鬱なような高揚しているような気分で赤司達の教室のドアを開ける。


「…遅い」

「わり、ホームルーム長引いて…………アイツらは?」

「帰らせた」


 教室には赤司しかいなかった。今日はツインテール。夕暮れが赤司を染めて、何というか、綺麗だ。昨日は緑間達がいたからわちゃわちゃしてたが、今日は赤司一人だからか雰囲気も出ている。
 どうして帰らせたのか聞きたかったが口は開かず、俺は赤司の前の席に座った。
 勉強中はひたすら勉強。紫原は雑談もしていたが、俺にはその余裕はない。
 いくらか勉強すると赤司は唐突に休憩を切り出した。切り出して、余計な話ができるようになって、できるようになったと分かった瞬間言葉が口から飛び出た。


「…俺が周りうろつくの、嫌だったら言えよ」

「嫌じゃないけど、嫌だとしたらいいの? 諦めるの?」

「……諦めねえけど困らせたくねーしな……よく分かんねえ」


 鬱陶しがられても、粘り強くいたら振り向くかもしれない。けれど振り向かなかったら。嫌がられたままだったら嫌だ。
 よく、分からないから、話を変えた。


「アイツらのこと名前で呼ばねーんだな」


 コクった時は紫原と緑間を名前で呼んでいた。ガイドブック運びを手伝った時は、名前を言いかけて名字で呼び直していた。どうして呼ばないんだろうか。
 二人だけを名前で呼ぶと贔屓に見られるからだ、と、目を伏せて赤司は答えた。寂しそうな顔だ。


「…俺の名前、ちょっと呼んでみ。誰もいねえしいいだろ」

「……大輝」

「うし」


 夕日が赤司の頬を赤く染めた。
 ちなみに名前を呼ばせたのに深い意味はない。呼んでほしかったから、それだけだ。
 また話を変え、今度はよく変わる髪型について聞いてみた。毎朝緑間か紫原が結ぶのだと答えられ、何度目かの嫉妬をした。俺はまだ触ったことのない髪に、簡単に触れるアイツらが羨ましい。
 テストがいい結果だったら、一度だけでいいから髪を結んでみたいと頼んでみよう。

 休憩は終わりだ、と赤司が告げる。酷く名残惜しかった。



* * *



「青峰のこと、やっぱり認めないのか?」


 一度告白をお断りした男のそういう話を征華がしたことは今までない。つまりこれは、前代未聞の大事件だ。
 三人での帰り道。テストからもう一週間経っていて、征華と帰る日常は戻ってきていた。オレと逆側の征華の隣を歩く紫原が珍しく焦る。


「赤ちん、峰ちんのこと好きなの?」

「いや、別にそんなわけでは」


 嘘つけ。顔中、耳まで真っ赤にして。
 征華のこんな顔は初めて見た。本人が意図的に気付かないフリをしているのか本当に無自覚なのかは分からないが、どう考えても、これは。
 赤い耳や頬のまま俯く征華の髪型は、二本の三つ編み。オレや紫原が弄ってできたものではない。今朝「今日は髪結ばなくていい」と言われた時は卒倒ものだった。だのに朝練になったら三つ編みになっていて。取り乱しそうになるのを堪えて聞いたら「青峰にしてもらった」。学年で五十二位になったからって調子に乗りすぎではないだろうかガングロめ。
 休み時間や授業中、征華が三つ編みにこっそり触れては頬を桃色にして微笑むのを何回も見た。あの男はあの不器用そうな指で、壊れ物を扱うように赤い髪を編んでいったのだろうか。

 赤司家の前で征華と別れ、紫原を振り向く。紫原にしては真面目な顔で、オレも同じ表情をしているに違いない。


「……ミドチン、オレ体育館にワスレモノしちゃった」

「奇遇だな、オレもなのだよ」


 アイツならあと一時間は日課の自主練習をしているだろう。
 オレと紫原は頷きあい、来た道を戻っていった。



* * *



 体育館の電気は点いていた。思った通り、峰ちんはいるみたいだ。征ちんの家の前でしたみたいにミドチンと頷きあって、外靴を脱いで体育館に入る。靴下越しに床の冷たさが伝わってきた。
 峰ちんは一人体育館を走り回ってボールと遊んでいた。楽しそうだ。けれどオレ達に気付いて遊びをやめた。バッシュを鳴らして近寄ってくる。


「忘れ物か?」

「ああ。征華のことでな」


 峰ちんが目を見開いて、そんで細めた。諦めねーぞ、と低く言ってくる。それは知ってる。征ちんが言ってた。「青峰は僕が拒否するまで諦めないらしい」って。征ちんは絶対拒否しないから、峰ちんも絶対諦めない。
 オレ達の方を向いたまま、峰ちんはボールを横に投げた。ボールは投げた先にあるカゴにキレイに入る。


「気になってたんだけどよ。オマエら、赤司のこと好きなのか? 俺と同じ意味で」

「…よく分からん」

「オレもわかんないー」


 峰ちんが絶句した。うける。写メとって征ちんに送ったげたいな。


「オレもミドチンも、征ちんのことが何より好きだよ」

「それが恋愛感情かは分からないがな」

「ねー。かぞくあい? のほうが近いかも。わかんないけど」

「とにかく。オレ達がどういう意味で征華を好きかは関係ないのだよ。お前のことは認めない」

「……望むところだ」


 峰ちんが部室に行くのを見送る。いっしょに帰る気はないから、峰ちんを待たずに外に出た。風が少し強くなっていた。
 ホントは、オレもミドチンも、ちょっとは峰ちんのこと認めてる。言ってやらねーけど。
 だって、オレらに認められてるかどうかを気にする程度の奴に、征ちんはあげられない。
 いつだったか黄瀬ちんが、どんな奴になら征ちんを任せるか、って聞いてきたことがあった。あのとき答えた条件が全部じゃない。
 一番だいじなのは征ちんへの愛情だ。でも言わなかった。言われて愛情を増やす奴にも征ちんはあげられない。

 峰ちんはそこんとこ合格。あとは、オレらに反抗してでも峰ちんと付き合いたい、って征ちんに思わせることかな。そこはまだクリアできてない。時間の問題だろうけど。

 クリアできてもかんぺきに峰ちんを認めたりはしないけど、征ちんが悲しくなるのは嫌だから、半分くらいは認めてあげるんだ。



END.









* * *
これまた長い…前回のストーカー話で吹っ切れちゃいましたうわぁ。青峰奮闘記書くの楽しみで、ラブコメみたいで楽しくて。続き書きたいくらいですっ。
視点がコロコロ変わって申し訳ないです。どうしてもこの四人の視点で書きたかったので。緑間と紫原の過保護っぷり+青峰の求愛(笑)に他の女子は妬きたいけど、赤司だから仕方ない、な雰囲気。

 
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