短編
□別離のヴァルゴ
2ページ/2ページ
「やけに積極的だな、今日は」
何かを耐えているように青峰は言った。無防備にすんな、と。
赤司は床につけていた足もベッドに乗せ、またも青峰の手首を掴んで引っ張った。青峰がバランスを崩すのを見届けてから後ろに倒れる。青峰が赤司を押し倒す形、いつかなったことがある形の出来上がりだ。
ポカンとした愛しくも間抜けな顔に笑いかける。
「あのね、こういうお誘いなんだ。分かる?」
「……、いやでもお前…」
言い淀む青峰に先を促すと、怖くねえの、と聞かれた。どいつもこいつも――溜め息が唇を割って出た。
「僕が怖がるわけないだろう」
「や、でもな…」
「怖いとしても。それでもお前と繋がりたいんだ」
最後まで言ったかどうかのところで唇を重ねられた。いつもと同じ濃密なキス。やはりこうでなくては。
たっぷり時間をかけたあと唇が離される。
今更イヤとか言うなよ、とスカートの中にしまいこんだトップスの裾を外に出され、胸の上まで捲られる。嫌なわけがないと答えながら、赤司はやっと僅かに強ばる己の体に気付いた。けれど止めたいとは思わなかった。
へえ、と息のような声を漏らした青峰の喉が上下する。
「…お前、こーいう下着付けてんだな」
「……変かい?」
「いや、逆。うっかり他の奴に見られたりすんなよ」
「そんなヘマするわけ…、っ」
下着をたくし上げられて胸があらわになり、思わず頬が熱くなる。しかも小振りなことこの上ない胸をやんわり揉まれ、挙げ句乳首を口内に含められ、熱は体全体に広がった。
息が上がったからか、上にずらされた下着が窮屈に感じられた。
「あ、っ青み、ね、ブラとって…!」
「あとでな。けっこういい眺めなんだよコレ」
「ひぅ、っや、そこで話すな、っばか」
吸って、転がして、潰す。そんな動きをしていた舌を離し、青峰の手が赤司のスカートの中の下着に触れる。足を閉じようとするが彼の体が間にあるから閉じられない。指が下着のその更に中に入り、腰がビクビク震えた。
「ちゃんと濡れてんな」と笑った顔は安心しているように見えた。
ぬぷ、と速くも遅くもない速さで指が中に入ってくる。
「ゃ、いっ、あ……はぅ…く、」
「やっぱきちいな…」
「だいじょうぶ、だから…っ、やめるとか、言うなよ? はあっ、ん…」
「言わねーよ。お前がヤダっつったら止めるけど」
「なめるな、っん、そんなこと言わない…んぁあっ」
くちゅりと水音がするくらいに動かれる。異物が入ってきたことへの痛みが強かったが、次第に痺れるような快感が起き上がってきた。
早く、早く青峰が欲しい。たとえ死ぬほど痛くても、もうかまわない。
熱に浮かされたようにぼうっと思う。その間に指は一旦抜かれ、身に付けていたもの全部を剥がれた。もう一度入れられた時、二本に増えていた。
「あおみね、指いい、ゆび、もっ、いいから、っぁ、」
「いいって、まだ慣らしきってねーよ」
「いいの、ぁ、…っや、早くきてっ」
「……、もうちょいな。これからは多分ゆっくり馴らしたりしねーから、今日は我慢しろ」
「っやだぁ…」
青峰がほしい、それだけでなく、気持ちよくてどうにかなりそうだから、ほしい。
指は激しく抜き差しされ、くちゅりどころでなくグチュグチュと音が鳴る。
「ぃ、っん……ひぁあッあ、っや…な、に…?」
「弱いとこ、だな」
「あっぁ、う…なんか、そこやだぁっ、ふあっ!」
「AVとかもだけど、何で女って気持ちいいくせにヤダとか言うんだ?」
「ら、だって、変になりそ…、っ、や、ぁ…早く、あおみねの…っ」
「もーちょいだって」
敏感なところを何度も何度も重点的に突かれた。
青峰の空いてる手は赤司の手と繋がれているから、中に指を入れている方の手の親指でだろう、突起を押し潰される。頭が真っ白になって、甘く強い痺れが全身を走った。
三本目の指が挿入される。前戯は終わる気配を見せない。赤司は繋がれた手の指に力を込めて快感に堪えた。
四本目が入り、掻き回されたり広げられたりすると、中が思わずと言った風に収縮した。
「青、みね、んっ、まだ…?」
「まだ馴らせんだろ」
「ほんとに…っひ、んぁっ、もうい、からぁ、あ、はやく…!」
懇願に近い形で言っても青峰の指は出ていかなかった。
気持ち良さにどうにかなりそうな赤司を引き留めるのは、力を込めるたび握り返してくる手だった。温かくて安心する。
やがてようやく、ズルリと指が抜けた。内側から引っ張られるような感覚に腰が細く震える。
片手でベルトを抜いてズボンを下着ごと脱ぎ、ベッドサイドの引き出しにしまってあるゴムを付ける青峰を見上げる。ことが始まってから彼の顔をまともに見るのはこれが初めてだ。ひどく真剣な顔。瞳も真剣で、その上情欲もあってドキリとした。
熱いものが先程まで指が入っていた場所の入り口に宛がわれる。突然キスされてそちらに気をとられていると、熱が一気に中に押し入ってきた。
「〜〜〜〜っっ!」
「…っし、入った、ぜ」
「んっ…、ふ、ぅ…は…よか、た…」
「…動くからな」
きついのか少し苦しそうな顔に色気を見つけてドキリとした。
赤司が慣れるのを待ってから、青峰は律動を始める。ガンガン奥を突かれて余裕がなくなっていく。それは向こうも同じようで、突き上げるスピードはみるみる増していく。
「ひっあっ、あアッ、ん、…ぁおみ、ねっ、ひぁああッ」
「カワイーよ、赤司」
「んっ、おまえもカッコい、よ、あっ、…っすっごく、な」
「ったく…! 反則だ、ほんと」
「おたがいさまだ……っあ!? ひぃっん、あっ、やぁあ…っ」
目に見えて速くなった突き上げにあっという間に絶頂に追い詰められた。中にいる青峰が大きくなったかと思うと、吐き出されたものの熱さをゴム越しに感じた。
* * *
手慣れてる感じだ、と言った赤司は、しまったと言いたげな、気まずげな仏頂面で黙った。初めてだと返して、少し乱れた赤い髪を梳く。赤い瞳が丸く見開かれた。
「そんなに痛くなかったぞ」
痛くなかったわけではないのは残念だが、それは、彼女が感じるだろう痛みを減らすために色々調べた甲斐があるというものだ。別の意味で苦しかったようではあったが。
驚き顔が仏頂面に戻る。素直に拗ねた顔をしても可愛いのに。
「初めてのくせに随分余裕だったな」
「あれのどこがだよ」
いっぱいいっぱいだったことは意地とプライドのために言わないでおく。
いつも絶対防御な服のくせに今日は隙のある服だから、落ち着こうと、赤司を部屋に入れて自分はすぐ廊下に出た。戻ってみたら下着が見えそうなくらいに屈みこんでいて。余裕なんてずっとなかった。ちなみにエロ本はベッドの下にはない。
早く彼女に入りたくて仕方なかったが、やはり堪えて馴らして正解だった。
血や他の体液で汚れたシーツを変えないといけないと思うのに動こうと思えない。
「次からはこんなゆっくりしねーから」
「望むところだ」
強気に笑う瞳に、とりあえず怯えや恐怖の類いは見当たらない。
だが、あの快楽に溺れた顔は色っぽくて可愛らしかったから、またやってもいいと思った。
今はただ、腕の中で擦りよってくる小さな体を痛くない程度に抱きしめた。
END.
* * *
夜でも昼でも、とのお話だったので夕方になりました! ひねくれて夕方にしたわけではなく、薄闇の中ヤらせてみたかったからです…薄暗いとなんか色っぽそうな。丁寧な青峰ととろとろな赤司に仕上がっていたら嬉しいです。青峰が紳士というかなんというか、そんな感じになりました。どんな感じ。