読物

□乱れ桜
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謹慎が解けてから、慶喜が澄玲を身請けして暫く経ち、世間からの風当たりも和らいできた頃。


「綺麗ですね」

家の庭に咲く大きな桜の木を見上げていた慶喜に寄り添うようにして、澄玲がほう、と息を漏らす。


「先代の将軍が花見が好きだったみたいだね」

「そうなんですか。お花見は昔からあったんですね」


よく両親や友人と花見をしていたのは、もう遠い昔のような気がした。


「…慶喜さん、お花見しませんか?」

「いいね。丁度庭の桜も満開だ」


お互い顔を見合わせてから、桜を見上げた。





赤い絨毯をひき、そこに二人は肩を並べて座る。

「こうしてお弁当食べるのも久しぶりですね」

重箱の蓋を開けて、取皿をとろうとした手を掴まれた。
きょとんとした顔をして慶喜を見返すと、口角を上げて微笑んでいる。

…何か企んでいる顔だ、と直感的にわかったが知らぬ振りをして動きを止めた。

慶喜は箸を手に取り、どれにしようかと少し選んでから金柑の甘煮を掴んだ。

「あ〜ん」

島原にいた時に、一度されたことを思い出した。
台詞を思い出そうとするが、慶喜が箸を向けて催促してくるので、思考は回らず口を開くしかなかった。

ゆっくりと開いた口に金柑を入れられた。

それは女性の口には大きく、口の中が金柑でいっぱいになる。

「美味しい?」

そう聞かれても口の中はいっぱいで返事ができない。

「ああ、澄玲の可愛い口には大きすぎたかな」

少し悪びれたような口調だったが、直ぐに何時もの不敵な表情をした。

「…口を開けて」

何を言うかとぎょっとしてしまった。
口の中の金柑は粉々で開けて見せるのは気が引ける。

ぶんぶんと首を振るが、小悪魔な笑顔を浮かべてじりじりと詰め寄る慶喜に、仕方なく口を開けた。

「いい子だね」

くいっ、と顎を持ち上げ、その開いた口に舌を入れる。
びっくりして身体を離そうとするが、その動きは慶喜によって拒まれてしまった。

己の口内でねっとりと動き回る慶喜の舌の動きに、頭がくらりとしてきてしまう。

鼻から金柑の甘い香りが抜けていった。

「ん…っ、け、い…っ」

合間に漏れた吐息も、慶喜の吐息に吸い込まれてゆく。
いつしか金柑はなくなってしまったが、口付けは止む事がない。

桜の花の強い香りに、自分が何処で何をしているのかと思うと、身体が火照りだす。

乱れてしまった着物の裾から、ひやりとした手の感触を感じてびくりと身体が一瞬反応したが、激しい口付けで頭がくらくらして制止することはできない。

するすると上がってくる手が、澄玲の女の部分に触れた。

ぬるりと滑った指先が、蜜が溢れていることを示している。


「…凄く濡れてるね、澄玲」


そう囁かれて、かあっと顔が熱くなる。

「大変だ、襦袢まで濡れてしまってるね」

「は、恥ずかしいです…」

わかってはいたが、言葉にされると尚恥ずかしくて顔もまともに見れない。
秘部をゆるりと滑る指に、腰が砕けそうになる。

「お弁当…食べなきゃ…」

熱く火照った頭を回転させて絞り出した言葉を、優しい口付けで封じられた。

「先にお前を食べるよ。熟れ過ぎて大変なことになっているからね」

かっと赤くなった澄玲の顔を見てくすりと笑い、首筋に口を落した。

ぼんやりとする視界の向こうには、ひらりひらりと舞う桜の花弁に、目がまいそうになる。

「…後で、お弁当食べて下さいね」

「もちろん」

赤い絨毯の上に二人は横たわり、舞い落ちる桜の花の元でもう一度口付けをする。


「桜の花より、お前の花を見る方が格別だよ」

そう囁かれて、澄玲は咲き乱れてゆくのだったーー

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