狩人×OP
□10.嵐の前の静けさと兄の伝言
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あの後イルミはようが無くなったと同時にやる気が失せ、さっさと船に戻り海軍本部ーーマリージョアに着くや否や書庫に許可無く入る。
「いきなり彼奴に襲いかかったと思いきやさっさと船に帰って本部に着いた途端呼びかけも無視してどっか行ったかと思ったら書庫に許可無く入るわで、本当に驚かされるよ君には」
尚も黄猿の嫌みにも反応を示さず本の文字を眼で辿る。
文字はいつもの慣れ親しんだハンター文字ではなく英語だったが難なく読み進めるイルミ。
完全無視を決め込むイルミに黄猿はお手上げだ、と肩をすくめる。
「何か探し物でもって?」
返事が返ってくるとは思ってはいないが一応尋ねると、本を読む手は止めないが意外なことにあっさり返事が返ってきた。
どうやら聞こえていて尚無視していたらしい。
「ちょっと確認したい事が有ってさ……………やっぱり」
「?何がやっぱりなんだい?」
こちらの事などお構いなしに勝手に一人納得するイルミに説明を催促する。
「俺がここに来た原因について色々と調べてたんだよ」
調べてたって……いつの間に。
全然気付かなかった。
といっても彼の場合表情筋が硬いのか全く変化が見られないのでそういう顔をしていても分からないので、気付かなかったのは仕方がないと思う。
普通勝手に入っちゃいかんでしょ。と言いたい所だが流される事は明らかなので言うのは諦めている。
それよりもその原因とやらが気になり続きを施す。
「で、原因は?」
「原因と言うよりはこの世界の普通は起こり得ない異常現象が起こした。といった所かな。それが今回のような現象を起こしたと考えた方が早いんだよね」
確かにこの世界は驚きの連続で何が起きるかなど分かったもんではない。
その異常現象が原因で今回のような別の次元から人が来るなどと異例な起きたと考えられる。
つまり、と唐突に話を切りだしたイルミに耳を傾けて話の続きを黙って聞く。
本来は来るはずのない別の世界の住人がこの世界に来てしまう。
まぁ、これはここの世界の異常現象の数々が原因なのは確かなんだけど、
俺がこの世界に来た原因は任務帰りのあの穴だね。
俺は帰りの途中一旦地面に降り立った時に黒い薄気味悪いおっきな穴が急に出現してね。
しかも困った事にそれは念とかが全く使えなくなるし身動きも取れなくなる。
多分この事はキルアは気づいてないだろうけどね。
けどそんな事は俺的にはどうでも良いんだよ。
「全然良くないでしょ」
「俺はこんな世界に来たって帰れるなら問題無いし」
「…自分の事なのに適当だねぇ、君」
それより話の続きだけど、これは俺の推測なんだけど俺達の世界をAとしてこの世界をBとして説明する。
AからBに行く時とBからAに行く時では時間帯が異なるんだ。
しかも困った事にその異常現象が不定期で出現するというとてつもなく面倒くさいことこのうえないんだよね。
だから出現するのは明日かもしれないし、もしくは1年後はたまた30年後の可能性もあり得るんだよ。
流石にそれは俺としてはとても、いやかなり良くないことでさ。
何せ俺にも色々向こうでの事情ってもんがあるし。
「じゃぁ、イルミでもいつそれが現れるか分からない。そう言うことかい?」
本を読み終わったのか、パタンと本を閉じると元在った場所に戻すと黄猿に無表情で変化が乏しいイルミの顔が向かい合う。
「何言ってんの?不定期ってだけで誰も分からないとは一言も言ってないから」
何言ってんのこの人みたいな顔を黄猿に向けたように見えた。
ようにと言うのは先程からも言っているが表情があまり変化が無いので分かりにくいので雰囲気でそんな表情をしていると予想。
目の前の人物を見ていると銀髪の確かキルアだったか、その子の苦労が目に見える気がした。
あの子も大変だったんだろうな、色々と。
ま、同情はしないが。
それより弟君で思い出したが、あの銀髪どこかで見たような気がしたが……はて、どこで見たか全く思い出せない。
年をとるって嫌だねぇ…ー
「所でいつその異常現象ってのはいつ開くんで?」
「明日だよ」
「明日……それはまた急だねぇ」
明日はポートガス・D・エースの公開処刑の日じゃないか。
「明日は確か誰かの公開処刑が在るんだったっけ」
「ポートガス・D・エースの公開処刑だよ」
聞いた本人が興味無さそうだったその後続いた言葉から聞き捨てならない単語が出て来る。
「ふーん…じゃぁ、もしかしたらキル来るかもね」
「弟君が?白ひげなら兎も角何で君の弟君が来るんだい?」
思ったままの疑問をそのままイルミにぶつける。
「んー………」
イルミは腕を組んで暫く考えるとまぁ、あれだよ。と言って人差し指を立てると曖昧な返事で返す。
「明日になったら分かるって奴」
「……相変わらず曖昧な返答だねぇ、そういうとこ」
「まあまあ、あ、ついでに俺明日の昼前には帰るから」
「それは初耳だねぇ」
今言ったからね、当たり前でしょ。と先程とは打って変わって何ともあっさりと答える。
じゃ、センゴクさんにも宜しく言っといてと手を振って書庫をさっさと出て行く。
ドアを開け、廊下に出て視線を上にやる。
「やぁ、盗み聞きと趣味悪いね。大将ってのは盗み聞きが趣味なのかな?」
「……」
見上げた先には海軍大将ーー青雉が廊下の壁にもたれ掛かっていた。
「いやぁ、やっぱりバレてたか」
「まぁね」
「気付いてて話したのか?」
「別に聞かれて困ることじゃないしね」
確かに自分は廊下で盗み聞きをしてる人物には最初から気づいていたがあえて気づいていないフリをしていた。
実際聞かれて問題は無かったので今更警戒する必要と無い。
最初から警戒なんてしてないけど、と一人心の中で呟く。
イルミは青雉に背を向けると明日の準備の為にとっとと退散しようとしたときだった。
「アンタ一体何を企んでる?」
背中越しにかけられる声に足を止める。
顔だけを後ろに少し傾け、いつもの無表情で淡々と返す。
「別に?何も企んでないよ」
「じゃぁ、何であんなに執着していた弟を連れて帰らずに元の世界に帰るんだ?変に思うのも当たり前だろ」
「大した事じゃないさ、キルは別に今連れて帰らなくても向こうに着けばいつでも連れて帰る時間は有ると思った。只それだけだよ」
じゃ、俺明日の準備が有るからと、その場を去って行った。
何だろうか、何ともいえない不安が過ぎる。
明日は確かに大きな戦争となるだろう。
それこそ世界が大きく変わるほどの戦争が。
しかしそれだけでは終わらない気がした。
「……考えすぎだな」
考える事を止める。
自分も何時まで此処に居るわけにはいかないので、というか黄猿とはち合わせると色々と面倒くさいので青雉もさっさとその場を離れる。
だがこの時の自分は明日の公開処刑で前代未聞の出来事が起こることなど知る世もしない。