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□銀色の星が降る夜に
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「ジャーファル、もう寝よう」
「先に寝てて良い」
「……………一緒に寝よう」
「まだ眠くない」
「嘘をつくな。船こいでるぞ」
「いいから。大丈夫だから」

星の瞬く夜、シンドバッドとジャーファルは旅先の下町の民宿に泊まっていた。

昼間にさんざん慣れない直射日光を浴びて歩いたジャーファルは民宿に着いたときには目に見えてへろへろだった。絶対に疲れている。それなのに、なかなか寝ようとしないのだ。

「ジャーファル、こっちにおいで」
「いやだ」
「……………………」

へこむ。

拾ってからずっとそうだ。ジャーファルは一度だってシンドバッドの隣で寝ようとしない。なかなか寝ようとしないから力ずくで寝かせようとした日があったが、そういう日は「寝るから触るな!!」と全力で拒否される。そして布団を持っていってベッドではなく床で寝る。

拾ってから結構日がたったと思う。なのに未だろくにスキンシップをしていない。寝ることも、風呂に入ることも拒まれる。

子が育つには親の愛がいると言う。たくさん話して、抱き締めて、頭を撫でるものだと。
普通の家庭の子供が受ける愛をジャーファルは受けてこなかった。だからこそ教えてあげたいのだ。包み
込まれる安堵、人の温もりを。親と名乗るにはまだ若いが、今ジャーファルに愛を教えられるのは自分だけだ。

けれどジャーファルは、温かさを知らないまま、社会の汚さ、人の冷たさを知ってしまった。抱擁は拘束に、人の気配は身の危険にしか捉えられない。

「…………………はぁ」

大きくため息をつく。自分は無力だ。どう手をつければ良いか分からない。窓辺に座る子供を、自ら寝床に来させるにはどうすれば良いのだろう。                    
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