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□A lullaby
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時々、夢を見る。
ぼんやりと目を開けると、そこはいつも薄暗い部屋で。
いつものように、むくりと体を起こす。
衣擦れの音も、体を動かした感覚も無い。ただ景色で、自分は起きたのだと感じる。
窓の外は暗くて、空から白い粉が降っている。それが雪だと分かったのは、何度目の夢からだっただろう。
部屋を見渡すと、ドアが少しだけ開いていて、オレンジの光が漏れている。
立ち上がり、ドアを開けると、少し広い部屋に繋がっている。
その部屋では、あまり見たことはないが、暖炉、というもので火が明々と燃えている。
暖炉の前には、いつだって。
「 」
自分が何かを言った。何も聞こえない、無音の世界。ドアを開ける音も、火が燃える音だってしていない。
そんな無音の世界で、暖炉の前で椅子に腰かけていた人が振り返る。
透けるように白い肌、白銀の長いふわりとした髪。白く長い睫毛に縁取られた瞳は黒曜石のようで、瞳と桃色の唇がやけに白い肌に映えている、綺麗な人。
「 、 」
その人が、何かを言った。
「 」
自分も何かを言った。
するとその人は、編み物をしていた手を止め、柔らか
く微笑み、両手を出した。
「 」
その言葉を聞き、てくてくと歩いていく。その人の膝によじ登り、柔らかい胸に頭を預けると、体を優しく包まれ、ポンポンとあやされた。
とても幸せになった。
という、映像。
自分の身に起きていることなのに、そこには何もない。
叶うならば、この人の声が聞きたい、手の温もりを感じたい。
女の人が、ふと顔を上げる。視線を追うと、男の人がいた。
背はまぁまぁ高い。白い肌に白銀の髪、黒い瞳。こういう民族なのだろうか。髪は白銀と言うよりは、灰色に近かったけれど。あと、そばかすが散っている。この人の旦那さんのようだ。
男の人はこっちに来ると、私の頭上で女の人の額にキスをした。かがんで、私の頬にもキスをする。
その感覚もわからないのに、くすぐったいと身をよじる。
男の人はわしわしと頭を撫でると、奥へ入っていく。女の人は私を再び胸に抱くと、ポンポンとあやした。
眠くなる。
眠りの世界へ誘われる直前、女の人を見上げる。
彼女はほほえんだ。
「 、」
『ジャーファル』
最後の口の形に合わせて、名前が呼ばれた。けれど、この人の声じゃない。
『ジャーファル…
…ジャーファル…………』
声がはっきりするほど、目の前の景色は薄れていき、
「ジャーファル?」
目を覚ますと、そこには愛しい人の顔があった。
「どうしたんだジャーファル」
彼は心配そうに、私の目尻をぬぐう。そこではじめて泣いているのに気付いた。
「なんだ、怖い夢でも見たのか?」
「………………いいえ」
そして再び目を閉じた。