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□Rainy days
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夕方。
放課後の教室に一人残り勉強をしているとき、ふと窓の外に目をやると、いつの間にかしとしとと雨が降っていた。
「…………………」
何となく、そのままぼーっと外を見る。
「ジャーファル」
いきなり呼ばれて少しびっくりした。
「…………何ですか、シン」
「帰ろう」
「あ、もうそんな時間ですか。すみません、ちょっと待っててくださいね」
そう言って帰る支度を始めると、シンが「何を見てたんだ?」と訊ねてきた。
「へ?」
「さっき、窓の外見てただろ」
「ああ………雨、降ってるなぁと思って。…………雨、あんまり好きじゃないです」
「どうして?」
「雲が重くて気持ちまで重くなります。あと、視界は悪くなるし、靴下は濡れるし」
「はは、確かになぁ」
「傘をさすのも、面倒くさいですし」
「あ、傘」
「……………忘れたんですか」
「ああ!!相合い傘しようジャーファル!!」
「確信犯だ…………」
帰り支度をし教室を出ると、シンが図書室に寄りたいと言ったのでそのまま図書室に行った。図書室は完全下校時刻まで開いているのだが、生徒は一人もいなかった。
本を見繕っていくシンの隣で、私も本の背表紙を眺める。
「雨には雨の良
さがあるんだけどな」
突然シンが口を開く。
ただでさえ二人きりなせいでドキドキしているんだからノーモーションはやめて欲しい。
「俺は、雨の音が好きだな」
「雨の音?」
「どしゃ降りは嫌だけどな。今日みたいなのは落ち着くんだ」
そんなの、意識したことが無かった。
「カエルもかわいいしな」
「カエル?!」
「ああ、ちっちゃいアマガエル。かわいい」
アマガエルとか見たことありませんけど。
「あと、雨上がりに虹が出たら嬉しいな」
虹か。それは確かに嬉しくなる。が、虹なんかずっと見ていない。雨が降りだしたら外に出ずに部屋にこもっているから、気付いたら晴れ上がっている。
「雨が降るのは仕方のないことなんだ、だったら楽しんだ方が良いと思わないか?」
……正論だが、それはすごく難しい。いつか気付けたら良いな、と思った。
「…………………あれ」
校舎から出ると、雨は上がっていた。
「相合い傘は次の雨の日までお預けだなー」
「そうですね」
「ジャーファルとくっついて帰ろうと思ってたのに」
本気で残念そうなシンを見ていると、何だか幸せになる。
「次の雨の日が楽しみです」
そう言って雲がちぎれて
いく夕焼け空を見上げる。
「………あ!!ジャーファル、後ろ!!」
「?……………あ」
そこには、大きな大きな虹が東の空一杯に掛かっていた。
「おおー!!でかいなー!!」
確かに見事な虹だけれど、高校生が虹でこんなに喜ぶなんて。
虹を見上げるふりをして、横目でシンを見上げる。目を輝かせるシンを見ると、私はこの人が好きだなぁと改めて思う。
「シン、帰りましょう」
彼の手をそっと握ろうとしたら、それに気づいたシンに指を絡め取られ恋人繋ぎになった。
「ああ、帰ろう」
笑いかけてきたシンの顔を直視できなくてうつむく。顔の火照りが引くように息を吸い込むと、雨の匂いがした。
嫌いだった雨の日すら、彼のとなりにいたら好きになってしまう。
そうして私の毎日は輝いていく。