ブック

□七夕
1ページ/7ページ


七夕。

それは広く東の民に浸透している、星の伝説の日である。

七夕はシンドリアでも祝われる。難民を受け入れることによって多民族化し、無宗教に等しい国民たちにとっては、どこの文化のどんな行事であろうが、それで祭りが出来るならばそれで構わないのだ。
マハラガーンと違って事前に準備できる祭りなので、自然と規模は大きくなる。数日前から祭りの準備に取りかかっていた街は、すっかり浮き足立っていた。

そして、祭りを前日に控えた今日、朝から国民は祭りが待ちきれないかのようにそわそわと仕上げに取りかかっている。

それは王宮内も然り。

「シン、明日の祭りの事で少し問題が」

昼前、困り顔のジャーファルがシンドバッドのもとにやって来た。ジャーファルが言うには、

王宮前に国民が願い事を書いた短冊を吊るしたものを飾ることなっていた。シンドリアには短冊を飾る笹と呼ばれる植物に近いものは一応あるが、国民が吊るせるほどの量はないので、背は低いが葉が多く繁る木を準備することになったのだが、七夕を伝えた人々はやはり郷愁から笹を望み、準備現場で揉めているらしい、ということだった。

「その植物はここでは稀少なので、自由に伐採できません。
商品になっているものは高いですし……」
「市民が簡単に手を出せるものではないしなぁ…………少しでもあれば良い、というなら何とかならなくもないが」
「彼らも今はシンドリア国民です。事情は分かってくれますし、気休め程度にあれば十分かと」
「そうか。じゃあ行こうかジャーファル」
「は?」
「それ、買いに行こう」
「何故ですか?」
「今準備するって決めただろ」
「いや、使用人に行かせるなり取り寄せるなり、手立てはいくらでもあるでしょう?」
「使用人はみんな忙しそうじゃないか。取り寄せるにしても、このごった返した街では時間がかかると思うがなぁ」
「それでも、シンが行くことないでしょう?私一人で行けますよ」
「………だって王宮にいたって暇だし」
「仕事」
「お前が『祭りで忙しくなるんですよ!!前倒しに片付けてください!!』って言ったんだろう。もう暫くすること無いんだ」
「………………でも」
「それに、この買い物は俺の自腹だしな!!」
「え?!いや、国庫から…」
「笹と難民なら難民に国庫を使うべきだろう」
「……………………」
「よし、決まりな!!今すぐ行こう!!」
「はぁ……仕方ありませんね、じゃあ行きましょうか」
「……え、待て、もう行くの?」
「シンがそう言ったじゃないですか」
「着替えないといけないだろう」
「………これじゃダメですか?」
「せっかく街に行くんだしなぁ。俺の金な以上は公的な買い物じゃないし、私服の方が良いだろう」
「祭りのためなんだから公的でしょう」
「俺からの寄付って形だからな!!」
「……………でも」
「でも、は無し!!私服で行くぞ!!」
「私、私服持ってません」
「……………………」







果たしてこれは甘くなるのか(T_T)
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ