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□七夕
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おかしなことになった。

「さ、ジャーファル様!!どのお召し物にいたしましょう?!」

衣装室の扉を開け放ち、目をキラキラ輝かせている侍女たち。

「王のご命令ですもの、うんとお洒落しましょう!!」
「あ、私、お化粧道具持ってきますね!!」
「ジャーファル様、香は如何なさいましょう?やはり真夏には柑橘系のようなさっぱりしたものがお薦めですわ!!」

「あ……えーっと……………どうも」

何でこうなったかと言うと。



『私、私服持ってません』
『え?!………うーん、どうしようか』
『だからこのまま……』
『あ、そこの君たち!!ちょうど良かった、ジャーファルをうんと着飾ってやってくれないか』
『…………………』



そして今に至る。
お洒落なんかしたことがなかった私は戸惑うしかない。

「あ、あの………私、お洒落とか分からなくて。お化粧もほとんどしませんし………」
「私たちにお任せくださいな!!王にかわいいって言ってもらいましょう!!」
「なっ、」
「王のために着飾れるだなんて羨ましいですわぁ」
「ち、ちがっ」
「ごまかさなくても良いんですのよ、宮中の侍女、皆分かってますもの」
「へっ?な、何を………?」
「何って………」

侍女はいたずらっぽく笑った。

「ジャーファル様が、シンドバッド王をお慕いされているって事ですわ」



**************

ジャーファルが侍女たちに引きずられていって半刻たった。

(ジャーファル、どんな服で来るかなぁ)

例の現場には通達を出しておいたので、急いで買い物をする必要はない。完全にデート気分だ。

(ああどうしよう………って、今から緊張してどうする!!)

思えばジャーファルと二人で出掛けるなんて久しぶりだ。しかも、お互い私服で街に行くなんてはじめてだ。

(ジャーファルが来たら何て言おう………)

心臓が軽やかに跳ねる。

言うまでもないが、俺はジャーファルが好きだ。多分、ジャーファルも俺が好きだと思う。
恐らく、お互いがお互いの気持ちに何となく気付いている。それでも踏み出せなかった。そうしながら、何年か過ぎた。

そろそろ現状打破したいのだが、今の今までなあなあにしすぎていて、どう手を着けたものか分からない、というのが残念な現状だ。

「どうしたもんかなぁ……」
「何がですか?」

突然の声に驚き、振り返る。


「お待たせしました、シン」


そこにいた
のはジャーファルだった。

鮮やかな明るめのピンクを基調にしたゆったりしたした服に細かく編まれた白いカーディガンをはおり、いつもは無造作な髪にも、花の髪飾りがついている。

心底間抜けな顔をしているのは分かっているのだが、ぼーっとせずにはいられない。

「……………………」
「あの…………変、ですか?」

頬を軽く染め上目遣いに見てくる。ナニこれ。可愛すぎる。

「いや………似合ってる、すごく」

可愛い、と言いたかったのに、何だか恥ずかしくて言えない。というか直視できない。そのチラチラする谷間をどうにかしなさいと言いたいところだがやっぱりそのままが良い。
下がりそうな視線を無理矢理上げ、ジャーファルの顔を頑張って見る。ああこいつ化粧してやがる!!これがナチュラルメイクか!!恐ろしいな!!

顔の筋肉を総動員させ、だらしなく緩みそうな顔を引き締める。エロ親父の称号だけはごめんだ。

「じゃあ、行こうか」

王宮を出て街に下りたとたん、人混みが広がっていた。

「すごいですね……」
「ああ。はぐれないようにしろよ?」
「はい」

子供じゃないんだから大丈夫です!!とか言うかと思ったが、思いの外素直に返事をした
ジャーファル。

流石にこの人混みじゃ危ないと思ったのか、と考え歩き出そうとすると、

きゅ

…………ジャーファルに控えめに服の裾を捕まれた。

目を丸くして振り返ると、ジャーファルは不思議そうな顔だった。

「シン?行かないんですか?」

こいつ無意識か!!天然か!!恐ろしいな!!

他の女がやったらあざといと思うであろう行為もジャーファルにされるだけでこんなに嬉しいものなのか。

(色々持つかなぁ………俺)
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