Du bist mein Licht

□Drei
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正十字学園、理事長室。

メフィスト・フェレスはとある人物と電話をしていた。
しばらくするとやれやれ、と呟いて電話を切ると、ふと感じた覚えのある気配に顔をあげた。

「おや、零さんおかえりなさい☆」
「ん……、ああ」

いつの間に帰って来ていたのだろうか。
零が理事長室の扉に寄りかかるようにして立っていた。祓魔師のコートを着ていることから、恐らくは任務の帰りなのだろう。
零は無遠慮に部屋に入ると、コートを脱いでソファーへと座った。

「…今の電話、雪男からか」

零の質問に、そうですよ、とメフィストは呟いて、串に刺した桜餅を頬張る。

「彼は肩に力が入りすぎですよ。…もっと人生味わわねば。それに敵は騎士團の上層部だけじゃない。…そろそろ父親も動き出す」
「……魔神…」
「……そうだ、零さん。塾の初日は如何でしたか?」

零の呟きに、メフィストはぱっと話題を変えるように、わざとらしく微笑んで零に問いかける。

「どう、って」
「久し振りの学生気分は如何でした?」
「……まあ、それなりだ」
「結構!楽しんでいただけているようで何よりです☆」

メフィストは大仰にウィンクをすると、おや?と零を見て頬杖をついた。

「また悪魔狩りをしてきたのですか?」

零の頬やあちこちについた返り血を見て、少し呆れたように呟く。

「ああ…学園内ではしていないがな」

約束だからな、と零は呟いて頬についていた血を乱雑に拭った。

「血塗られた貴女も美しいですが……私としては、やはりいつも通りの零さんが好きですねえ☆」
「…気持ち悪いことを言うな」
「おや☆これは心外ですね」

メフィストは零の元へ移動すると、さながら騎士のように足をついて頭を下げた。零の髪を一房取ると、そこにゆっくりと口付けを落とす。

「私はいつだって本気のことしか言いませんよ?」
「…道化が」
「なんとでも」

メフィストは対して悪びれもせず肩を竦めた。
零の淡い光を湛えた赤眼が、メフィストを真っ直ぐに射抜く。

「……零さん」
「───…」

メフィストは零の手を取ると、ちゅ、と微かな音を立てて、手の甲にキスを落とす。

いつだって、そうだ。
メフィストは己を駒だという。なのにこうして度々愛情表現紛いのことをする。その真意は謎で。
いつだって彼は、零を振り回すのだ。

「…メフィストは」
「はい」
「私を……」

零はそこまで口を開いて、思い留まったように口を閉ざした。
ああ、野暮だ。私は彼の傀儡。それ以下でもそれ以上でもないのだ。
今自分が聞こうとしていたことは、愚問でしか、ない。

「零さん?」
「……なんでも、ない」

零はメフィストの手を振り払うと、おもむろに立ち上がり、踵を返す。

「……今日は、寝る。……おやすみ、メフィスト」

零は呟くようにそれだけ言うと、メフィストの返事も聞かずに理事長室を後にした。

「……おや」

メフィストには、零が何を言おうとせんか、既に分かっていた。
彼女とは、どの祓魔師よりも付き合いが長いのだ。

「機嫌を損ねて、しまいましたかね」

メフィストは零の出ていった扉を見つめて、至極愉しげに、口を歪ませた。






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