Du bist mein Licht
□Fünf
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「…参りましたねぇ…まさか学園内にいないとは」
メフィスト・フェレスはぽつり、とそう呟くと、ぽんっ、と軽快な音を立てて、白い犬の姿から、いつもの人型へと姿を変えた。
零が姿を現さなくなってから三日が経過していた。
普段であれば、気紛れな零のことである。彼女が三日程度姿を現さなかったからと言って、探したりはしないのだが。
けれどそれはいつもの話で、メフィスト自らが彼女に命令し任務を与えた時は、嫌々ながらも必ず律儀に顔を出すのだ。
彼女は自分の駒だ。
それは今更申し開きもしない。
でもそれ以上に、自分は惹かれたのだ。彼女に。ただの駒だと思えない程に。
初めて出会ったその時に、彼女に対して底知れない興味を持った。
幼子でありながら、恐れもせずに真っ直ぐに自分を見据えて逸らさなかったあの灼熱に燃える瞳。
彼女は真っ直ぐに、自分の死だけを見つめていた。
そして彼女の、力。
彼女は人間ではないと、一目見たその時に悟った。
そして彼女も、恐らくそれを悟っていた。自分は人間でないと理解していた。
そして彼女は、自分についてくると言った。
魂を捧げると言った。
自らの目の前に立つ自分の正体を知ってもそれを曲げることは無かった。
彼女は笑わなかった。笑い方が分からないのだろう。
彼女は泣かなかった。泣き方を忘れてしまったのだろう。
彼女は感情の一部が欠落していた。
ただ彼女は何も聞かず言わず、自分についてきた。
やがて彼女は祓魔師になった。
やがて彼女は悪魔に異常な執着心を示し、悪魔を執拗なまでに狩り尽くすようになった。
それでも彼女は自分についてくることをやめなかった。
悪魔である自分を殺そうとはしなかった。
彼女は駒だ。これまでも、これからも。きっとその真実は変わらない。
でも、自分は。
彼女が大切だ。
いつからか芽生えていたのだ。そんな感情が。
でもそれは、その感情が正確には分からないのだ。
この感情に名をつけられない。
「…本当に、参りました」
それが彼女を悩ませている。きっとそれは間違いない。
自分は悪魔だ。彼女だって人間ではない。でも彼女は、確かに人の心を持っている。
自分と最も近く、最も遠い存在。
彼女は脆く曖昧だ。今にも消えてしまいそうな危うさを持っている。
それを守りたいと思う自分の気持ちの名がなんなのか、メフィストはそれを見出だせないでいた。
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