Du bist mein Licht

□acht
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思っていた以上に、今回は面倒事が多そうだ。

「──これは、どういうつもりですか零さん」
「……どういうつもり、というと?」

現に、今この状況下に置いて、ああ、もう投げ出したい、と零はそう思っていた。

「アマイモンのことです!」

ああ、やっぱりそれか。と零は至極面倒臭そうに顔を歪めた。

「兄を鍛えるにしても、やり方が強引すぎる!皆さんにバレたらどうするつもりですか!?」
「私がそんなこと知るわけないだろう。…全てメフィストの考えだ」
「ですからフェレス卿は何を…!」
「あー…うるさい。…今はそんなことよりも、もっと重要なことがあるだろう」

そんなに兄が、奥村 燐が気になるのなら、自分で守ればいいじゃないか。
何故、それを今自分に言うのか。零はそれが気に入らなかった。

「何を言って、」
「放っておいたらアイツ、剣を抜くだろうな。……いいのか?止めに行かなくて」
「っ」

雪男は苛立ちを隠すことなく踵を返すと、燐のいる方向へと走り去る。
そんな雪男を遠目で見送って、溜息をつく。

「…アイツが何を考えているかなんて……私が知りたいくらいだ」

今回言い渡された任務の意図もいまいちよく分からない。候補生を守れだなどと。

「何故私が……」

正直、零にとっては候補生などどうでもいいのだ。今回の一件でもし死んだのであれば、そいつはそこまでの人間だったに過ぎない。仮にも祓魔師を目指すのであれば、自分の身を自分で守ることは当たり前であって。

そんなことは、メフィストも分かっている筈なのだが。

それに今回は自分が手を出す必要はないと、そう思っていた。

けれど戦闘狂のアマイモンのことだ。奥村 燐との闘いに夢中になれば、恐らく敵味方関係なく邪魔するものは殺そうとするだろう。

アイツは手加減というものを知らないのだ。

「…というかお前、さっきから何を見てるんだ」
「おや☆バレてましたか」

零は当たり前だ、とじっとりとした目でメフィストを見据える。

「…お前の気配などすぐに分かる。いや、お前…敢えて気配を消さずに居たな?」
「…さて、なんのことでしょうか?」
「………」

コイツは一体どこまで分かっていたのだろうか。
恐らく零が祓魔師である、と候補生達に露見することさえ分かっているのだろう。
零の祓魔は大仰にして大胆だ。そんな零が自らが祓魔師であることなど隠し通せる訳がない。それをメフィストは等に分かっている筈なのに。

「……ふん」
「…嫌ですねぇ、そんなに怒らないで下さいよ」

ふわり、と零を引き寄せると、浮遊する己の椅子へと招き入れた。それを零は不快そうに顔を歪めて。

「貴女が今後動きやすいように事を運んだに過ぎませんよ?」
「…はぁ?」
「奥村 燐の正体が露見します」
「!」

正体の露見。それはつまり、零にとって祓魔塾生を演じる必要性は無くなるということだ。
そしてそれは、祓魔師としての活動を再開するという意味であり。
本格的な、魔神の息子としての燐の覚醒を意味していて。

「ペテン師め」
「なんとでも」
「……に、しても」

零はぽつりと呟くと、暫し悩むような仕草を見せて。
やがてその形の良い眉を歪めた。

「奥村 燐の正体が露見するということは……恐らくアイツが」
「そうですね。三賢者が黙っているとはとても」
「チッ……あのクソハゲめ……今日こそ一発殴ってやる」

零は長い金髪を持つ男を想像して、悪態をつく。
零にとって彼は宿敵とも言える存在なのだ。…最も、零が一方的にそう思っているだけなのだが。

「まあそれはそうとして…事の顛末を見に参りましょうか☆」
「…あのクソハゲに会いたくないんだが」
「私としても会わせたくはないのですが…まあ致し方ないですね☆」
「………」

零はじとっとメフィストを睨むと、恨みがましそうにメフィストの頬をつねった。

「…いひゃいです、零さん」
「痛くしてるんだよ」

フン、と零は顔を背けると、深い溜息をついた。

魔神の息子。その顛末。
策謀と作為が混ざったそれは。
世にどのような結果をもたらすのか。


それは、恐らく…誰にも分からないのだろう。






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