Du bist mein Licht

□neun
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空が、青い。
いつか見たあの夜を彷彿とさせて、零は空を見上げて思う。

暴走とは哀れなものだ。
成程魔神の息子は、力を完全に己のものと出来ていないらしい。

こんなにも不安定なものを───藤本とメフィストは何故生かしたのか。
その場に居合わせなかった零には分からない。
またあの夜が──起こるとも限らないのに。

こうして、奥村 燐の正体は、メフィストの思惑通りに露見した。
何やら雪男が怒鳴り散らしてはいるが、零の耳には何も届かない。

ただ、ただ、燃える木々を眺めるだけ。

「いやぁ、青いな…まるであの夜のようじゃないか」

ふと、頭上から声がする。
ただぼんやりと、燃える木々を眺めていた零の耳が微かに動く。
声のする方へと顔を向ければ、はためく白と金。

嗚呼、不快、だ。

「ブルギニョンはそこの候補生の子供達を拘束し事情聴取。医療班に診せるのも忘れるな。それと消防隊が着いたら消火には聖水を使わせろ。ここにはA濃度の貯聖水槽があるはずだ。急げ」

てきぱきと指示を出す奴を見据えて、零は嫌悪感を隠すことなく顔を歪ませた。ファサ、と髪を翻して男は振り返ると、どこか胡散臭い笑みを浮かべて名乗る。

「おはよう諸君!オレはアーサー・A・エンジェル。…ヴァチカン本部勤務の上一級祓魔師だ」

こいつにだけは会いたくなかった、と零は額を押さえた。
三賢者が黙っていない。つまりはこの男が出てくるのは必然であり。

零はこの男…アーサーが大嫌いだった。

「つい最近任命されたばっかの現「聖騎士」だよ」
「えっ!?」

シュラがどこか面倒臭そうに候補生達へと短く彼を説明すれば、上がる驚嘆の声。
それにアーサーは浮かべた笑みを一層深くして。

「そしてシュラ、オレはお前達の直属の上司だ」
「フン」

そんな他愛もない会話ですら、零にとっては煩わしく鬱陶しい。
事前にメフィストに「大人しくしていてくださいね☆」と言われていなければ殴りかかっていたところである。

「零」

不意に名を呼ばれて、ぴくり、と肩が反応する。
気安く呼ぶな、とばかりに睨めば返ってくるのはムカつく程の爽やかな笑みで。

「久し振りだな、零!どうだ、メフィストなどでは無くオレの「断る」…ハハ!相変わらずだな!」

あくまで笑みを崩さないアーサーに零はチッ、と舌を鳴らして。
合わないのだ。零とはまるで正反対であるこの男とは。

「しかしシュラ、これはどういう事なんだ?…君の任務は、故・藤本獅郎と日本支部長メフィスト・フェレスが共謀し、秘密裏にしているものを調査報告する事じゃなかったか?そして何故、ここに零がいる?零程の上級祓魔師となれば特別な任務でもない限り本部にいる筈だろう?」

やがてアーサーは不意にその浮かべた笑みを崩して、零とシュラへと問う。
零はふん、と無言を貫く。それにはぁ、とシュラは溜息を吐いて面倒臭そうにアーサーへと答えを投げる。

「だってどーせアタシ以外にも密偵送ってんでしょ〜?」
「まあな。…だがもう一つ、大事な任務があったはずだ」

そう、エンジェルが呟いたと同時に。空が、再度青く染まった。
青い、あおい、どこまでも青い──炎。

「もし、それが……」

そして、それを纏った何かが、どさりと地へと降りてくる。


───メフィスト、だ。

「グルル オ"オ"グア"あ"ア"ッ」
「………!」
「…燐!!」

そう、唸り声をあげる燐を、引き摺るように、メフィストはアーサーへとどこか含みのある笑顔を向けた。

「おや。お久しぶりですね、エンジェル。この度は「聖騎士」の称号を賜ったとか。深くお喜び申し上げる」

どこまでも慇懃な、どこか無礼さを秘めたメフィストの挨拶を、アーサーは気にかける事無く、話を続け。

「もし、それが……サタンに纏わるものであると判断できた場合、即・排除を容認する」

そう、言い放って。
アーサーは燐を至極忌まわし気に見つめて、呟く。

「…シュラ、この青い炎を噴く獣は。…サタンに纏わるものであると思わないか?」

───彼の纏う、空気が、変わった。その明らかな変化に、零は咄嗟に、武器へと手を伸ばして。
射るようにアーサーを見据えた。

明らかな──殺意。表情こそ穏やかではあっても──いつ斬りかかって来ても、今の彼ならば可笑しくは無いからだ。

「メフィスト。……とうとう尻尾を出したな。お前の背信行為は三賢者まで筒抜けだ。……この一件が決定的な証拠となった」
「…私は尻尾など出してませんよ。紳士に向かって失礼な」

そう、呟くと同時に、メフィストが燐へと何かを囁いて。
アーサーが剣を抜くのと同時に──ぱちん、と零の耳へと届いた音に、メフィストを庇うように前へと身を乗り出して。
フ、と目前に居た筈のアーサーの気配が、消えた。

「……!」

強い、衝撃。
けれどそれを受けたのは零ではなく──燐、だ。

「正十字騎士團最高顧問三賢者の命において」
「っ、!」
「魔神の胤裔は誅滅する」

ふわ、と。己の真横を横切り燐へと刃を向けるアーサーに、零は僅かばかりに目を見開いて。

そしてその視界の端に舞う──もう一つの、剣。

シュラ、だ。

「……霧隠流魔剣技…蛇腹牙、蛇牙」
「!!」


重なり合う、金属音。
強い衝撃と、轟音が響いて。

──勝負は、決した。



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