紅き叫びと銀の誓い

□そして巡り合う
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魔力の残滓を辿る。
間違いではない。奥へ奥へと進む度に、人のものではない、異形の力の気配がする。

そしてたどり着いた場所。

「…ここは……」

森を抜けた先にあるここは。
アルカ遺跡。

「…間違い、ない。……あの気配…」

あの時感じた魔力。それと同じものを、ここアルカ遺跡から感じるのだ。

人のものの中に混じる、微かな気配。
奥へ奥へと進むたびに、その気配が濃くなって行く。

「……ここ、は」

恐らく、アルカ遺跡の最奥部。
広がった空間にポツリと一人ただずむ、紫の少年。

「(…この、気配は彼のもの……?…いや、違う…)」

彼を纏う強烈な、紅の波動。怒りを秘めた、強い魔力。
一瞬その魔力に魅入られて、くらりと眩暈がした。そして次の瞬間、ルナリスの視界を遮る眩い光。

「っ……!」

その魔力が、増幅する。
油断をすれば全て持っていかれてしまいそうな程に強い魔力。

そしてやがて、その魔力が収まって。
うっすらと、目を開く。

「…っ、?」

視界に映るそれは、紅。
目に眩しい、鮮やかな彩。

その色を纏った人為らざる者が、バサリとそのマントを翻す。

「…うむ……この身体になるのも、久しいな」

そして踵を返した彼と、目があった。

「………」
「………」

長い沈黙。彼の紅玉の瞳に捕らわれて、目が離せない。

「……お前」

彼が近付いてくる。
けれど逃げられない。まるで足が、石になったように硬化して、動けないのだ。

「っ、!」

がしり、と捕まれた腕が痛い。

「…その瞳。その魔力。お前…まさか」

食い込む指が痛い。
彼なら、自分を殺してくれるのだろうか。

「……殺すの?」

彼の目を見据えて、そう呟いた。
ぴくり。とそれに彼が微かに反応する。

「…いいよ。ボクは死にたい。……だから。殺して?」

思えば死に場所を求めて来たのだ。
自らを葬る程の力を持った存在を、ずっと探していた。

そう、きっと彼ならば。

「……君なら、ボクを殺せるでしょ?」

この煩わしい力を。
嫌われ忌まれる自分を。
全て、無かったことに。

「……お前は、自らの存在の価値を、知っていてそう言っているのか?」
「…え?」
「お前は自分の出自を知っているのかという話だ」

勿論、知っている。
だがそれがなんだというのだ。

「知ってる……けど?」
「ならば知っていて何故その命を投げ出そうとする」

彼は一体何が言いたいのか。
そう問い掛けるように彼を真っ直ぐに見据えてると、彼は微かに溜息を漏らした。

「…お前、名は」
「…ボク?ボクはルナリス…」

紅を纏いし魔物は、やはりな……と呟いてルナリスを離す。

「……まあ、いい。安心しろ。私はお前を殺したりはしない」

その言葉に、ルナリスはそう…、とつまらなそうに呟いた。

「…君なら、ボクを殺せると…そう思ったんだけど」

残念、とルナリスは呟いて目を伏せた。
それが酷く、美しく見えて。
ああ、やはり、と魔物は固唾を飲む。



互いが互いに魅入られて。
それが二人の、出会い。




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