Du bist mein Licht
□Fünf
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「…捜しましたよ。零さん」
正十字学園、とある建設予定地。
正十字学園を一望出来るこの場所は、零のお気に入りの場所の一つだった。
「…メフィストか」
零は一面に広がる夜空を仰いでいた。メフィストからは、零の表情は伺えない。
「…すみませんでした」
そのメフィストの言葉に、零はピクリと肩を揺らした。
「…なんで、謝る?」
お前は悪くないだろう、と零は小さく呟いて空を仰ぐ。
「少なからず、貴女を不快にさせてしまいました」
「………」
「それを、謝らせて下さい」
零は、溜息を一つ吐くと、くるりとメフィストの方を向いた。
「私は駒だぞ」
「ええ、それは今更申し開きもありません」
「王は使えぬ駒は捨てるものだ」
その言葉にメフィストは二三瞬いて、ああ、と納得した。
そんなことを、気にしていたのか。
「貴女は使えぬ駒ではありませんよ」
「…どうだか」
王の言うことを聞かぬ駒など要らぬだろうに。そう言いたげに、零の紅蓮の瞳が真っ直ぐにメフィストを捉える。
メフィストはそれに、嗤う。
ああ、可愛らしいものだと。
「…何を考えている」
「御機嫌斜めな姫君を騎士としてどう慰めたものかと」
「茶化すな」
メフィストは茶化してなどいませんよ、と薄く嗤う。
「…私は悪魔です」
「知っている」
「貴女も確かに人間ではない」
「………ああ」
「けれど」
メフィストはバサリ、と零をマントに包むように抱き締める。
「この温もりは人のものだ」
「…何が言いたい」
「そう拗ねないでください」
ふと、唇に降ってくる温もり。啄むような軽い触れ合い。
「…これで、誤魔化せるとでも?」
「思ってませんとも」
「なら、っ」
その触れ合いが深くなって。お互いに酸素を求め会うような、そんなキス。
「ただの駒としか思っていない相手に、こんなこと出来る男に見えますか?」
「…見える」
「酷いですねぇ」
メフィストは愉快そうに笑って、零の頬に触れた。
手袋の無機質さ。温もりは感じられない。
けれど確実な、存在感。
「愛など執着の錯覚と説くのが悪魔です。…ですが私は貴女に興味がある」
メフィストは零の紅蓮の瞳になぞるように触れる。その時のメフィストの表情は、なんとも言えなくて。
こんなメフィストを、零は知らない。
「──…」
「その紅い瞳の謎も、貴女の血も。…勿論、貴女自身にも」
長い沈黙。
どれくらい見つめあっていたのか。その沈黙を破ったのは、零の深い溜息で。
「…そうか」
とそう、一言。
それにメフィストは笑みを浮かべて。
「では私とお帰り頂けますね?姫君」
「ああ」
「それは良かった☆」
メフィストは零に手を差し出すと、零はそれに遠慮がちに手を乗せる。
メフィストはひざまずくと、それに流れるような動作で口付けて、再度笑みを浮かべる。
「…気持ち悪い」
「おや、いつもの零さんだ☆」
そんな零の軽口にもメフィストはおどけたように笑って。
零はそんなメフィストを見て、ああ、コイツは笑ってばっかりだなと、呆れがちに目を伏せて。
「…もう、大丈夫だから、離せ」
「おや?怒ってますか?」
「…そうじゃない。…アマイモンが来るんだろ?」
「──…ああ。さすが零さん。…鋭いですね」
メフィストがニタリと妖しげに嗤う。それは零がよく知るいつものメフィストの表情で。
少しだけ、安心するのだ。
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