雪のような君と暖かな恋を。

□偶然を装った必然?
1ページ/1ページ




朝。私は図書館に赴いていた。
図書館で、新刊のチェックをする。これが私の日課だった。

「(あ…好きな作家さんの新刊が出てる…)」

昨日本を読まずに寝てしまったあの時の自分を少しだけ悔やむ。思い返すのは、昨日の綺麗な男の子のことで。

「…彼、どこかで…」

あんなに綺麗な子、そうそう忘れられるものでもないのに、と碧は憂い気に溜息をつく。
その背後から聞こえる、低い声。

「?朝から溜息なんてついて、どうしたんですか」
「え?いえ、別に…大したことじゃな……っ!?!?」
「?どうしたんです、そんな百面相で」

なんてことだろうか。これが噂をすれば、という奴か、と碧は心の中で驚愕した。

「あ……えと、」

何も言えずにどもっていると、男の子は少し可笑しそうに微笑む。

「ふふ…おはようございます」
「へ?は、はい。おはようございます?」
「何故疑問系なんですか?」

クスクスと可笑しそうに笑う彼を見て、何故この子がここに?と碧は首を傾げたが、彼の手元にあった本を見て、ああ、と納得して目を瞬たかせた。

「朝から熱心ですね」

そう言われて、しまった、食い入るように本棚を見つめていたのを見られてしまったか、と碧は少しだけ顔が熱くなるのを感じた。

「…その…好きな作家さんの新刊が出ていて、それで」
「ああ、彼の。…俺も好きですね」

碧は彼のその言葉にぱっと顔を明るくした。

「!本当ですか!」

分かってくれる人に巡り会えた。その嬉しさから自然と笑みが溢れる。

「この作家さんは、私の世界をガラッと変えてくれたんです…この作品があるから、今の私があるんだと…そう思います」

嬉々として語る碧を少し驚いたように見据えて、目の前の少年は薄く微笑む。

「…とても、本が好きなんですね」

そう言われて、ハッと碧は我に帰ると、少し恥ずかしそうに微笑む。

「す、すみません…柄にもなく語ってしまって」
「いえ、構いませんよ」

その返事に、碧は少し安心したようにへにゃりと笑う。

「ありがとうございます…」

そこでHR開始間際を知らせるチャイムが鳴って。碧は焦ったように我に帰る。

「も、もう戻らないと…!」

ごめんなさい!と一礼してパタパタと図書室を後にする碧に手を振って、立ち去る碧の背中を見据えながら少年は呟いた。

「…あの時と全く…変わっていませんね…碧」

その呟きは、誰の耳にも届くことはなく、宙に響いて弾けて消えた。







[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ