雪のような君と暖かな恋を。
□偶然を装った必然?
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朝。私は図書館に赴いていた。
図書館で、新刊のチェックをする。これが私の日課だった。
「(あ…好きな作家さんの新刊が出てる…)」
昨日本を読まずに寝てしまったあの時の自分を少しだけ悔やむ。思い返すのは、昨日の綺麗な男の子のことで。
「…彼、どこかで…」
あんなに綺麗な子、そうそう忘れられるものでもないのに、と碧は憂い気に溜息をつく。
その背後から聞こえる、低い声。
「?朝から溜息なんてついて、どうしたんですか」
「え?いえ、別に…大したことじゃな……っ!?!?」
「?どうしたんです、そんな百面相で」
なんてことだろうか。これが噂をすれば、という奴か、と碧は心の中で驚愕した。
「あ……えと、」
何も言えずにどもっていると、男の子は少し可笑しそうに微笑む。
「ふふ…おはようございます」
「へ?は、はい。おはようございます?」
「何故疑問系なんですか?」
クスクスと可笑しそうに笑う彼を見て、何故この子がここに?と碧は首を傾げたが、彼の手元にあった本を見て、ああ、と納得して目を瞬たかせた。
「朝から熱心ですね」
そう言われて、しまった、食い入るように本棚を見つめていたのを見られてしまったか、と碧は少しだけ顔が熱くなるのを感じた。
「…その…好きな作家さんの新刊が出ていて、それで」
「ああ、彼の。…俺も好きですね」
碧は彼のその言葉にぱっと顔を明るくした。
「!本当ですか!」
分かってくれる人に巡り会えた。その嬉しさから自然と笑みが溢れる。
「この作家さんは、私の世界をガラッと変えてくれたんです…この作品があるから、今の私があるんだと…そう思います」
嬉々として語る碧を少し驚いたように見据えて、目の前の少年は薄く微笑む。
「…とても、本が好きなんですね」
そう言われて、ハッと碧は我に帰ると、少し恥ずかしそうに微笑む。
「す、すみません…柄にもなく語ってしまって」
「いえ、構いませんよ」
その返事に、碧は少し安心したようにへにゃりと笑う。
「ありがとうございます…」
そこでHR開始間際を知らせるチャイムが鳴って。碧は焦ったように我に帰る。
「も、もう戻らないと…!」
ごめんなさい!と一礼してパタパタと図書室を後にする碧に手を振って、立ち去る碧の背中を見据えながら少年は呟いた。
「…あの時と全く…変わっていませんね…碧」
その呟きは、誰の耳にも届くことはなく、宙に響いて弾けて消えた。
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