狐の嫁入り

□プロローグ
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いつだって、自らのこの境遇を、厭っていた。いつだって、幸せだなんて思ったことはなかった。

いや、正しくは幸せ「だった」。

少なくとも、家族がいて、兄弟がいたあの頃は。
いつだっただろうか。人が自分以外の仲間を、親族を、兄弟を滅ぼしたのは。
悔やんで悔やんで、泣いて泣いて泣いて。悲しみに溺れて、分からなくなった。
人とは恐ろしいもの。自分の欲の為に、全てを犠牲に出来るもの。
他人の幸せも、他人の命も、全て自らのために犠牲に出来る。
だから、そんな人間に利用されるのが嫌で、命を擲った。
ああ、沈む。沈む。
どこまでも深くふかい、どこまでも澄み渡る青。鼻を擽る、潮の香り。
全てを失ったとき、直ぐにでもこうしておくべきだったのかもしれない。
このどこまでも広い、生命の起源に。
自らの命を還して。
大好きだった、この世界に。一度愛したこの世界を。
いつまでも、見守れるなら。

ああ。











どこまでも



















沈む。





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