狐の嫁入り

□第七幕
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青葉城にて。
ぱたぱたぱた。と、どこからか忙しなく廊下を駆ける音が聞こえてきて。
ああ、この足音は恐らく葛籠であろう、と小十郎は耳を澄ませれば、向こう側から走ってくる葛籠が見えて。ぱあ、と小十郎を見つけるや否や表情が明るくなったことを鑑みると、恐らく葛籠は己に用があるのだ、という結論へと至った。
珍しい、とそう思いつつ、小十郎は目の前で転びそうになった葛籠の身体をぽすりと受け止めて。

「わっ…!小十郎様、ありがとうございます」

成程このそそっかしさは主の…政宗の頭を抱えさせるに足る、と小十郎は二三瞬いて、あくまで笑みを崩さない葛籠を呆れたように見つめた。

「あまり廊下は走るな。…どうした?そんなに慌てて」
「はい!実は小十郎様に頼みたいことがありまして!」

えへへ、と花が咲いたように笑う彼女に、ああ、平和だ、と小十郎は思う。
頼みたいこと?と首を捻れば葛籠はにこにこと頷いて。

「私、城下町へ行ってみたいのです!」
「城下町へ?」

どういうことかと詳しく聞けば政宗の治める地に興味があるのだという。
そういえばまだ町の紹介をしていなかったな、と小十郎は内心で一人納得した。

「それと…これは政宗様に秘密にして欲しいのです」
「秘密に?」
「実は、日頃お世話になっている政宗様に、何かお礼として贈り物が出来たら、と思っておりまして…」

ふふ、と照れ臭そうに笑う葛籠を小十郎は感心したように見つめた。
彼女は中々に出来た人物らしい。
成程そういうことならば、と小十郎は薄く笑って。

「いいだろう…贈り物のことは秘密にするが…城下町へ行くには政宗様の許可がいる。そこは分かってるな?」
「はい!それは勿論!ありがとうございます、小十郎様!」

善は急げですよ!と笑うと、葛籠は小十郎の袖を引いて走り出して。

走るなと言ったばかりだというのに。全く、世話が焼ける、と小十郎は葛籠の背を追いかけながらそう思うのだった。







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