S hort n

□僕の可愛いわんこ
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太陽が大地を照りつける昼。
玲(れい)が空き教室で壁にもたれて本を読んでいると、ふいに本に暗い影が落ちた。

その影の正体に心当たりのあった玲はパタリと本を閉じ、眼鏡を押し上げて顔を上げる。
すると案の定、遥か頭上には一つ年下の幼馴染、和弘(かずひろ)がパンの袋を抱えて立っていた。

「──遅かったな」
「購買‥混んでて…」

そうか、と素っ気なく返して横に置いていた弁当箱を取る。
和弘はそんな玲の隣に胡坐をかいて座った。

座って高さが近くなるかと思いきや、元の身長差が大きいからか、余り変わったようには思えない。

玲はそのことに心の中でチッと忌々し気に舌打ちをするが、表面上はそんな事をおくびにも出さず、弁当箱の包みをほどいた。

隣ではもう、和弘がパンの袋を開けて食べ始めている。
玲も箸を取り、いただきます…と呟くように言って食べ始めた。

その間2人の間には会話は一切無い。
しかし、それを気まずく感じたりはしない。

それは小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた、気心の知れた間柄だからだ。

暫くして、遠くの方で他の生徒たちがはしゃぐ声が聞こえてきた。
昼休みも中頃に入ったからだろう。

玲は食べ終わった弁当を仕舞う。
隣では和弘が相変わらずパンを食べていた。

和弘は大きな図体に見合わず小食で、食べるのが遅い。
小学校の頃は、和弘の教室まで赴き一人残って食べている和弘を待ったり、時には内緒で食べてやったこともあった。

それも、ある日を境になくなったが…

玲の意識が昔に飛びそうになった。
けれど隣から視線を感じて、和弘の方に視線を流す。

すると案の定、こちらをジッと見つめていた和弘と目が合った。

「玲…?」
「…何でもない。和弘、寝るから影になれ」

伺うような光を宿した瞳から視線を逸らして、玲は唐突に願いを口にする。
零からの唐突なお願いはいつものことなので、和弘は黙って頷いた。

玲は和弘の影の部分に横たわり、寝心地のいい体勢を探して目を閉じる。
けれど玲は眠らず、昔のことを思い出していた。

そう、それは──
幼馴染の和弘が変わった時のことだった。
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