Memory of a crocus

□5 赤い情熱 
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一階と二階はすべて見終わった。病院、浴室……図書館まであるとは。
外から見たときよりも広い気がするのは気のせいか。
さて、次はどうしようと思い、目の前の扉をなんとなく開けてみる。
体に吹き付ける冷えた空気が、外にいると気づかせた。どうやら中庭に出たようだ。

「ニャハハハ!ここまでおいでー!」

頭上から声が聞こえたかと思えば、上の通路を子供たちが元気に走ってゆくところだった。
……楽しそうだな、あんな風に遊んでいた小さいころの自分が懐かしい。

「あ、彩雨おばちゃんだ!」

こちらに気づいたジェームスが声をあげる。そばにいた子供たちも口を開いた。

「あのひとが彩雨?僕はミイラ坊やだよ!いつか遊んでね!」
「僕はマイサン。よろしくね」

子供たちも意外といるのか。小さい子はそんなに嫌いではない。むしろ好きなほうだ。
だが、ミイラ坊やの頭には斧が刺さって、あからさまに血が出ているのだが大丈夫なのか……
本人はさほど気にしていないようだが。

「惑わされるなセニョリータ、あいつらは悪魔だぜ」

中庭の奥のほうから声が聞こえた。見ると、花壇のそばに一人の青年と一人の少女がいる。
ジョウロを持っているので、花壇の世話をしているようだ。

「気をつけろ……やつらはいたずらの天才で、ヘブッ!?」
「え……」

突然彼が盛大にずっこけた。顔から地面へと倒れこむ。
彼が一歩足を踏み出したとき、縄がピンと張って足をひっかけたのだ。

「ニャハハ!ひっかかった〜!」
「ねえ、次は何するの?」
「あ、まってよ、おいていかないで〜」

いたずらの犯人はこちらを見下ろして楽しそうに笑い、どこかに走り去る。その後ろを二人の子供が追いかけていく。
子供たちの声が小さくなっていき、あたりは静かになった。
ちらりとさっきずっこけた彼を見る。顔や服についた土を払いながら、ゆっくりと立ち上がった。
女の子はその横で、静かに彼を見ている。とりあえず、声をかけてみようか。

「えっと……大丈夫ですか?」
「大丈夫よ……いつものことだもん」

彼のかわりに隣の少女が答える。いつものことなんだ……

「はあ、全く情けないとこ見せてしまったぜ。お前、彩雨だろう?俺はカクタスガンマンだ」
「私はロストドール……よろしくね。あと、こっちはケイティ」

彼女は自分の腕に抱えていた人形を見せる。

「……やっぱり知っているんですね、私の名前」
「ん?ここにいる者のほとんどが知っているぞ」

本当いつの間に……何でだろう。

「ねえ、バラ育てているの……一緒にお水やらない?」

ロストドールがジョウロを差し出す。
花壇を見れば、いくつもの赤いバラが咲き誇っていた。花壇の隅にはハーブも葉を伸ばしていて、とても良い匂いがする。

「綺麗なバラですね」
「ここのバラは一年中咲いているんだ、不思議だろう」

たしかに、吹きつく風は冷たいがこのバラは生き生きしている。
育てているこの二人の愛情が伝わるようだ。

「ふっ、いつかこのバラを花束にして我がいとしのセニョリータに……」
「それはもう無理でしょ」

ロストドールの言葉にカクタスさんはがっくりとうなだれる。失恋でもしたのか……
それにしてもロストドールの言葉かわいい顔して結構怖い。

「いや、次あったときは絶対に渡してやるんだ!」

一人意気込むカクタスさんを横目に、綺麗なバラの数々を眺める。
ふと、バラとハーブの隙間に別の植物を見つけた。色が白いので少し目立っている。
その植物は他に混ざってさりげなく葉を伸ばしていた。まだ蕾なので何の花かよくわからない。

「カクタスさんこの植物は何ですか?」
「ん?何だこれは、見たことないなー。いつの間に生えてきたんだ?」

ロスドールも黙って首を振った。どうやら二人とも知らないらしい。
植えていないということはどこからか飛んできて、ここにたどり着いたのだろうか。
気になる……どこかで見たことあるような花なのだが、何ていう花だったかな?
花にそんなに詳しいわけではない私が見たことある気がするのだから、有名な花だと思う。

「……まあ、飛んできたか、シェフが植えたかのどっちかだろう。気になるなら図書館で調べてみたらどうだ?」

たしかに、一階の図書館にはたくさんの本があった。何か思い出すヒントになるかもしれない。
よし、次はそこへ行こうかな。

「彩雨……この白い花も大切に育てるね」
「うん、ありがとう」

今日はもうこのくらいにしよう。いつの間にやら、日も落ちかけている。
中庭にはまだ開けていない扉があったが、今はやめておこう。……部屋に帰れなくなるのが怖いから。
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