Memory of a crocus

□6 埃まみれの記憶
1ページ/2ページ

[Library]

最初は少し中を見て終わりだったその場所に、静かに足を踏み入れる。
床に積もった埃が蝋燭の明かりでも見えるくらいに舞い上がった。
本棚には、さまざまな種類の書物が並べられている。物語や伝記に学書……
タイトルの無い本に一瞬興味をそそられたが、読むのは今度にしよう。

「やあ、あなたも読書ですかな?」
「読書とは良いものだ、時間を忘れられる」

不意に、二人の男性から声をかけられた。どうやら先客がいるようだ。
彼らはたしか、ミイラパパとクロックマスター。ミイラ坊やとマイサンの父親だとネコゾンビが言っていた。
ミイラパパの頭には青竜刀が刺さっている。
……親子そろって大丈夫か気になるが、息子と同じで彼も気にしてはいないようだ。
二人は本に埋もれて、何かを読みふけっていた。

「いやはや……難しい本ですな〜頭が痛くなってきました」

ふらふらとしながらも、結構しっかり読んでいるミイラパパに少し苦笑する。
そして私は、本棚を片っ端からにらめつけた。

綺麗に並べられていたので、割と簡単に見つかった。

[植物図鑑]

分厚いそれを三、四冊引っ張り出して、中央の机に置く。とたんに無数の埃が舞い上がり、軽く咳き込んだ。
それが、この本が長い間読まれていないことを物語っていた。

「……うわっ」

手や服にまでついた埃を軽く払ったとき、ふと大事なことに気づいた。

あの花の名前……知らないんですけど……

もともと何という花か調べるためにここに来たんだ。名前から調べられるわけないじゃないか。

「はぁ……」

ため息をついて、目の前の本を見つめる。わかる事といえば、白い花。そして、寒くても育つような花……
でも、あのバラのように一年中咲ける花だったらどうしよう。
せっかく見つけ出したのだから、とりあえず開いてみた。
スノードロップ、スイセン、エリカ……たくさんありすぎてさっぱりわからない。
写真を見れば、なんとなくピンとくるかと思ったがこれといって何もなかった。

あきらめきれず、ぱらぱらとページをめくり写真を一枚づつ眺めてゆく。だが、同じようなぶ厚い本はまだ何冊もあるのだ。

しばらく眺めていたが、そろそろ出る事にした。埃まみれになったこの部屋にずっといるのはやめておきたい。
……またここにくる事にしよう。

「おお……もう行ってしまうのか」
「ええ、でもまた来ますよ」

そんなクロックマスターの声に軽く返し、部屋を出る。よくあの場所に長時間いられるな……
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ